祭子
2022-07-18 13:03:01
1612文字
Public FF7/R×A/TLKG
 

■TELL A TALE■

∠[ν]-εγλ0009/12
古代種を保護した日に神羅社長が習慣を一つ捨てます。躊躇しつつもなぜか不快ではありません。
※サイト掲載テキスト(20200820初出)

■TELL A TALE■
∠[ν]-εγλ0009/12


 ベッドルームに入り、ついいつものくせで鍵をかけてから、ルーファウスはドアノブに視線を落とす。
 隣室にあるベッドは寝心地がよくない。あれは星痕症候群の発作のさい、膿で汚したベッドの代わりに使っていたものだ。取り急ぎ用意できたのはパイプベッドだった。薄いマットレスはぐったりとした身体を受け止めるだけの優しさはなく、身じろぎするだけでぎしぎしと音を立てて睡眠の質を悪くする。あれでは心身ともに休まらないだろう。ルーファウスはベッドにはこだわりがある。『住』のなかでも、寝台ですごす時間は一日のうちのそれなりを占めるからだ。エアリスが話したがらないので深追いはしなかったが、ここへ来るまで恵まれた環境ではなかったようだ。彼女が入ってきてもいいように鍵を開けてから、ベッドに入った。
 ルーファウスはデコラティブピローを退けて、ヘッドボードにもたれた。今日はさすがに無理を強いたようだ。体内に熱を帯びてくる感覚がある。今晩はうなされるかもしれない。ただ、今はレザー独特のひんやりとした肌触りが心地いいと、ルーファウスは思った。
 もう一度、彼はドアを見る。
 たとえば侵入者が堂々とドアからやってきた場合。ピッキングされようが、蹴破られようが、ドアが開くまでの多少の猶予をルーファウスは得ることができる。彼に考える時間を与えた時点で、侵入者の敗北は決まったも同然だ。
 狭い室内、鍵のかかっていないドアは、彼を不安にさせた。


 翌朝、定時に起床したルーファウスはガウンをまとって部屋をでた。ふと香ばしいにおいにつられてキッチンに向かうと、エアリスがいた。新鮮な朝に似あいのすっきりした顔でコーヒーを淹れている。おはよう、と笑顔で言われて彼は一瞬戸惑った。
「キッチン、借りてるね」
「ああ」
「あなたの部屋から、アラーム聞こえたから。起きてくるかと思って。コーヒー、好きなんでしょ」
「分かるのか」
「うん。ネルドリップなんて、好きじゃないとしないよ」
「よく眠れたようだな」
「うん」
「あんな岩みたいなベッドだぞ」
「今、庶民の感覚、ばかにしたでしょ」
「そんなつもりはないのだが」
「ベッドで眠れるだけ、ありがたいことなんだから」
 ルーファウスは納得する。一般に流通していたのは、ああいった小さなベッドなのだろう。それですら今となっては新品は入手困難だ。
 ヒーリンロッジを当面の拠点と決めたさい、業務に必要な機器はジュノンエリアにある支店や分室から、家具や家電はここからいちばん近い彼の別荘やアパートメントハウスから運ばせた。勿論、クイーンサイズのベッドもだ。ゴールドソーサーエリアにあるペントハウスのキングサイズを気に入っていたが、いかんせん海をこえて運ぶ手段がなかった。
 ミッドガルを離れて、ミドルクラス以下の感覚に馴染んだつもりだった。が、彼の生活環境の基準はまだアッパークラスのままだ。たまに失念する。
 エアリスはなかなかに聡いようだ。洞察に長けていて、会話がスムースに進む。フランクな話し方もいい。彼の部下も敬語をうまく使えない者が多いが、さすがにファーストネームを呼び捨てはしない。怨嗟の声以外で、ルーファウス、と呼ばれるのは久しぶりだった。彼の父親が死んでからは初めてのような気がする。
 何より彼女は気丈だった。神羅がしつこく追い回した甲斐があったのか、もともとの素質なのか。
 ようやく天体観測と寝酒のほかに長い夜をすごす面白みを手に入れて、ルーファウスは満更でもなかった。今晩も、明日の夜も、鍵は開けておくか。そんな風なことを考えながら、ルーファウスは差しだされたカップに口をつけた。料理に自信はないようだったが、彼女の淹れたコーヒーは香味豊かで美味かった。


■END■
(何か重要な意味がある)

20200820