祭子
2022-07-18 11:43:19
1155文字
Public FF7/R×A/TLKG
 

■THE PRESIDENT'S MISCHIEVOUS LOOK■

∠[ν]-εγλ0010/08
タークスを随伴しない神羅社長を主任が見咎めます。男の顔癖にツォンは妙な既視感を覚えます。
※サイト掲載テキスト(20200907初出)

■THE PRESIDENT'S MISCHIEVOUS LOOK■
∠[ν]-εγλ0010/08


 早朝のエントランスホールは、靴音がよく響く。靴音も以外も。
 散歩へ行くと言ったルーファウスの恰好を見て、ツォンは引き留めずにはいられなかった。彼はスーツケースを引いていた。白いスーツは着ていない。
「社長、散歩にしては荷物が多いのではないですか」
「エッジヘ行く。車をまわせ。私が運転する」
 連れは不要だと暗に言われたが、ツォンは頷かない。足を肩幅に開き、後ろ手を組む。行く手を阻むようなツォンの様子に、ダークスターが主の前に立って頭を低くする。
「社長はご存じないようですが、散歩というのはそのあたりをぶらぶらと歩くことです。通常、車は不要でしょう」
 ツォンは犬にはかまわず、ルーファウスに視線を向けた。
「それにエッジは、散歩と呼べる範囲にはないでしょう」
「だから車がいるのだが」
 ルーファウスはしれっとこたえる。エントランスゲートの突き当たりの壁には、社章が掲げられている。それを一瞥したあと、彼は両手を広げた。
「いずれはエッジかジュノンに本社を移そうかと考えている。そうすれば私の庭だ。庭ぐらい、自由に歩かせろ」
 ゆくゆくは世界が私の庭だな、とルーファウスは冗談めかして言った。
「屁理屈を」
「お前は私を裏切った」
 ホールが凍てついた。ツォンは主の双眸に真正面から刺されて、動けない。
「無礼を働いた詫びのつもりだったのだろう。あのとき、犬の散歩を認めたのは」
「はい」
「ディーの優秀さはお前もよく知っているはずだ。すでに私はこいつにいのちを救われている。二度もだ」
「それはそうですが」
「心配するな。三日後には戻る」
「本当でしょうね」
「そのつもりだ」
 そう言って、ルーファウスは笑った。ツォンは違和感を覚える。ちょっとしたことにも派手に笑うくせのある男だったが、こんな風な顔をしたことがあっただろうか。
 悪戯が成功した子供のように小生意気で、それでいて屈託のないそれ。
 ツォンは心の奥底にしまった小箱を、恐る恐る開いた。驚いた。彼をさんざんに振りまわした女と同じ笑い方だった。
 ルーファウスとエアリスは似ていない。眸の色も、髪の色も、その長さも。話し方が、言葉遣いが。背恰好も、声も、そもそも性別が。生い立ちも、経済事情も。何一つ、似通っているところがない。だというのに、なぜ。
 ツォンは小箱から目を逸らせる。携帯端末を取りだすと、部下に車の手配を促した。
「どうした」
「いえ。お気をつけて」
 ツォンは主の目前から、すっと身を引いた。一礼をするツォンに、ルーファウスは片手を上げた。


■END■
(悪戯な顔つき)

20200907