祭子
2022-07-18 11:17:24
1504文字
Public FF7/R×A/TLKG
 

■TO BE IS TO DO■

∠[ν]-εγλ0009/12
帰社の車中でエアリスは神羅社長と密やかな悪戯に興じます。これほど高揚した気分は久々です。
※サイト掲載テキスト(20200707初出)

■TO BE IS TO DO■
∠[ν]-εγλ0009/12


「お前のことは、まわりには伏せておく」
「言っても、信じてもらえないものね」
「そうではない。秘密が一つあるだけで、人生はより面白くなる」
「あなたの秘密、一つくらいじゃないでしょ」
 ルーファウスは睫毛を伏せて微笑した。
 タークスが後部座席のドアを開ける。ルーファウスはSUV型の防弾車に乗る前に、タークスへ事務処理上の申し送りをしている。その隙に、エアリスが車に乗りこむ手筈だった。
 エアリスは彼の言分に、今になって納得した。タークスには見えないと分かっていても、こそこそするのはスリルがある。スリルは、ずっと暗い気持ちでいた彼女を高揚させた。
 帰途につくなか、後部座席で足を組み上げる彼は、踊り場でへたばっていたのが嘘のように毅然としている。
「社長。スーツに汚れが」
「つまずいて、転んだ」
「何ごとがあったかと、心配しました」
「何かごとなど、そうそうあってたまるか」
 そう言って、窓のそとを見るふりをしながらルーファウスはエアリスにめくばせをした。それから低い声で笑いだした。タークスはバックミラーごしに社長を見、すっと目を逸らせた。
「一方的に通信をお切りになるなら、GPS内臓マイクロチップ・インプラントを受けていただきます」
「完成したのか」
「ええ。小型化GPS、しかもバッテリー交換不要です。神羅の技術の賜物です」
「そんなものより先に、開発を急ぐものはいくらでもあるだろう」
「あなたのいのちが最優先です」
「もう攫われたりなどしない」
「ルーファウス、誘拐されるの。こんな大きいのに」
「今、お持ちの現行品ですと、通信を切られでもすればGPSが機能しませんので」
「じゃあ、誘拐されて、ひん剥かれちゃったら、おしまいじゃない」
 ルーファウスは吹きだした。
「何か楽しいことでも」
「毎日楽しいぞ」
「さらに安心して楽しくおすごしいただけるように、ぜひ、マイクロチップを」
「言うこと聞いてあげたら。あなたが迷子になって困るの、この人たちでしょ」
「犬か、私は」
「犬ならまだ自力で戻る可能性があります。あなたの場合、囚われの姫君ですから」
「だって、神羅のお姫様」
「よく分からないが、皮肉をありがとう」
 今度はエアリスが耐えきれずに笑いだした。
 ちらちらとバックミラーをのぞくタークスとは、相変わらず目はあわない。だが、もう胸はそれほど痛まない。
 また実験体になるのはいやだというのは、建前だ。本当は神羅に囚われても、実験体にされてもよかったと、あのときは確かに思った。誰かに必要とされたかった。誰かの目に映り、誰かの耳に声を届け、誰かにふれられたかった。その誰かが、まさかのルーファウス神羅だと、エアリスは思いもしなかったけれど。
 存在理由は、まだ前向きに考えることが難しい。それでもこの状況下に置かれて落ち着けるくらいには、気持ちを持ち直せたことが嬉しかった。彼が淡々と接してくれるおかげで、星に置いてけぼりにされたというのに、大したことではないようにすら思えてしまうのが不思議だった。ちらっと彼を盗み見る。微笑んでいるというのに、相変わらず何を考えているのかよく分からない、薄い表情をしている。となりにいるのがルーファウスでよかったと、エアリスは思った。
 エアリスは彼をまねて、足を組んでからふんぞり返る。口元をおおい、肩をふるわせるルーファウスと、溜息をのみこんでいるタークスとを見比べてから、彼女も笑った。


■END■
(存在することは行動すること)

20200707