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出口
2023-02-12 16:51:13
4627文字
Public
呪専パロ(五悠)
「非常識な時間に本命チョコを携えた2人がエンカウントした結果」
呪専ごゆでバレンタインのお話。
後ろ向きな悠仁と余裕のない悟ですが、ネタバレタイトルのとおりハピエン確約なやつです。
tetra toxic
バレンタインの日の俺の思い出に過去華々しいものなどなく、義理ならともかく本命チョコなんて貰ったことなかった。
とは言え今までの俺は恋愛ごとに疎いというか、あんまピンと来てなかったっていうか。釘崎辺りに話したら情緒が育ってないなんてガキ扱いされたけど、バレンタイン当日にソワソワすることもなくむしろ何の日かすら忘れていた。だって店なんかのバレンタインフェアって正月明けから始まるだろ? 当日になったら最早感覚も麻痺してる。
そんな俺でも義理チョコなんかは貰うことあって、貰ってから初めて「アッ、バレンタイン!」って気づくんだよな。近所のおばちゃんやお姉さんから2つくらい貰って、学校でも5つくらいは貰える。お礼を言って受け取るけど、バイトもしてない俺としては7つもあるとお返しもなかなか厳しくて。結局行きついた先が手作りお菓子だった。
俺は家で飯作ったりすること多かったし男の手料理みたいなもの別にフツーに考えてたけど、どうやら男子中学生界隈では割とマイナーだったようで。
お返しを渡すたび驚かれたけどみんな美味しいって言ってくれたし、次の年もチョコレートくれたから嫌がられはしなかったんだと思う。ホワイトデーに多めに作って男友達ともシェアしたら、そっちも美味いと奪い合ってたし。
でも俺がバレンタインデーに、チョコレートやチョコ菓子なんかを作ったことは今まで無かったんだよな。いつも貰ったお返しにささやかながらって感じだったし、チョコの入ってない焼菓子だったし。
なので、今年作ったチョコ菓子は受け取ってもらえるかは分からなかった。一応事前に練習もしたし、試作品は伏黒と釘崎に味見してもらった。
「あの人は甘いものが好きだから、もっと甘いものでもいいと思う」
なんて伏黒に言われて、結局行き着いた先はガトーショコラ。
「うわ♡ あんたお店出せるわよ」
なんて手放しで釘崎が誉めてくれるとか予想外に嬉しかったし、ホールで作ったガトーショコラの大半は釘崎と真希先輩とのお茶会に貰われてった。
だから味や焼き上がりには問題ないと思う。あるとしたら今日がバレンタインデーだってことだけ。こんなガチなやつ差し出したら、もう言い訳なんてきかない。「本命です! 大好きです!」って告るしかない。
昨夜のうちに作り終えたガトーショコラは、今朝早くラッピングした。ラッピングとかよく分からなくて「これも釘崎に相談すれば良かった!」なんて思ったし店のやつよか見劣りするけど、俺にしては良くやった方だと思う。
特にリボンの色には迷った。情熱的な赤もいいし、俺が好んでよく選ぶ色のオレンジなんかも良いかな
……
って思ったんだけど、結局は水色にした。俺の大好きな先輩の瞳の色。
釘崎も伏黒も俺がこのチョコ誰に贈りたいかは知っている。チョコの試食をお願いした時に吐かされた。2人して呆れたような顔で俺を見て、だけどその顔には驚いたってよりも「やっぱり」って言葉が書かれているようだった。どうやら俺は分かりやすいらしい。つまり、俺が先輩のこと好きなの前々からバレバレだったってこと。
「もしかして先輩にも気づかれてる!?」
悲鳴のように訊いた俺に、
「あっちはあっちでお花畑だからな」
「幸いにも気づいてないから逃げるなら今よ」
よく分からない受け答えをされたが、どうやらセーフ? らしい。
2人は味見係してくれはしたけど、その合間にちょいちょい「あの人はやめておけ」とか「考え直すなら今のうち」とか説得のような言葉を挟んで来たから、
「応援してくれてんの? してくれねーの? どっち」
涙目で訊いたら、ちょっと困ったような目を見合わせてから2人してため息をつかれてしまった。
説得はされてるけど、反対まではされていないらしい。つか、半ば諦めるようなその空気なんなの? 俺泣くよ?
それでも一応理解者みたいな2人が出来て、俺はフラれても泣きつく先を手に入れた。相手は先輩だとはいえうちの学校は生徒数めちゃ少ないし、フラれるの前提で告るのって凄い躊躇ったんだよね。先輩に迷惑だろーな、とか。もう口もきいてもらえなくなったらどうしようかな? とか。
先輩はハッキリとした人だから、曖昧な返事はしないと思う。だけど聡く優しい人だから、断る上でも俺の気持ちを何もかも理解した上でフッてくれるはずだ。
気持ちをフッ切った、ってより好きが振り切れた。
腹を決めた俺はもう、このチョコ持って砕け散るしかない! それならばせめて、誰よりも先に先輩にチョコレートを渡したかった。先輩はモテるから、うかうかしてると出先で山盛りのチョコの箱受け取って来るだろう。幸いにして高専内に先輩のことガチで惚れちゃうような人居なさそうだけど、どうせなら義理チョコなんかに負けたくもない。
先輩の今日の予定とか知らないし、下手をすれば早朝発の任務って可能性もある。出発前に捕まえられなかったら詰みだ。
俺は早朝から起き出してラッピングを済ませると、制服に着替えてまだ寒い廊下に飛び出した。もしかしたら先輩はまだ寝ているかも知れない時刻の廊下を歩く。最近は日の出が早くなってきたけど、それでも外はまだ暗い。廊下の明かりは3分の1程度に落とされているから薄暗かった。
目的の部屋へ辿り着く前に、ゆらりと立ち昇るよう感じたその呪力に気づいた。
五条先輩だ! 俺が五条先輩の呪力を間違えるはずがない。
角を曲がった先から感じたそれに、俺は間に合ったのだと安堵する。部屋を出たところっていうことは、これから任務へ向かおうとしていたんだろう。
足を早めた俺は、
「ごじょー先ぱ
……
」
廊下の角曲がった先にあるその姿を見とめる前に呼びかけていた。だけどその声が途切れてしまったのは、俺を振り返った五条先輩の手に紙袋が掴まれてたから。
「悠仁、何してんだ? こんな早く」
先輩は驚くようにして俺を見たけど、俺も驚いた顔してたと思う。だってその紙袋、多分あれだよね? 隙間からチラ見えする金のリボン飾りはプレゼント用のラッピング。尋ねるまでもなくチョコレートの箱が入ってるの俺でも分かったけど、今部屋を出たばかりの先輩がそれを持っているってことは誰かが俺より先にこんな時間からチョコを渡しにきたってこと? 完全に油断してたのは、高専内だったから。
――
誰? 一体誰だよ?
ってザワザワとする胸で色んな可能性を考える。学生の誰かなのか、それとも高専関係者か、いやむしろそれを貰ってさっき帰ってきたところ鉢合わせただけで
――
五条先輩は昨夜から居なかったのかも知れない?
最悪な想定をして、俺は震えた。バカみたいに浮かれてたけど、五条先輩に恋人が居ないなんて確かめた訳じゃない。適当に遊んでるみたいに揶揄られる言葉は聞いたことあったけど、俺が実際何かを知ってる訳じゃない。
五条先輩を見つめて固まってた俺に、何を思ったのか先輩が近づいて来た。
「それ、もうチョコ貰っちゃったのかよ?」
そして俺の抱えてた不恰好なラッピングの箱を指差して言った五条先輩の声が低く届いたのに、
「
……
へ?」
俺は間抜けな声を返す。惚けつつも俺は、箱を傾け中身を崩してしまわないよう水平を保ってた。
「誰だよ? こんな時間から押しかけてまで渡してくるとか非常識な奴」
先輩の言葉に、非常識なことしようとしていたらしい俺はヒェッと慌てる。
「しかも手作りかよそれ? ブッサイクなラッピング
……
センスねーな」
サングラスの向こうの目はどこを見ているか分からなかったけど、先輩の指差すそれは鮮やかな水色。このリボンの色結構気に入ってたんだけど、やっぱオシャレには結べなかった。
「義理じゃなく本命サイズだろそれ、そんなの受け取ったら付き合うしかねーだろ」
ふるふるっと震えが来てしまったのは、付き合う気がなければ受け取ってすら貰えないって現実を俺が忘れてたから。
や
――
ばい、何とか誤魔化さねーと、非常識に手作りで不恰好な本命チョコを五条先輩になんて渡せない。俺、やっぱ先輩に嫌われるのだけは絶対に嫌だ!!
なのに先輩は、俺の抱えてた箱を取り上げるようにして奪ってしまった。まさか取られるとは思ってなかったから、背中に隠すの一瞬遅れた。俺の気持ちのこもったあの箱が、五条先輩の手にあるってだけでそれは時限爆弾に見えてくる。
「これは俺が処分しておいてやるから」
処分されてしまう、俺の想い。取り返そうと思っても、隙のない五条先輩にそうして立ちはだかられては絶望的な気分だ。俺の気持ちは俺に処分させて? って湿っぽい気持ちになるの自分でも情けないけど、その瞬間から時限爆弾は人質になり俺は何も言えずに先輩を見上げることしか出来ない。
「オマエのは、これ!」
しかしムスッとしたような先輩は良い、もう片方の手に掴んでた紙袋を俺の胸に押し付けて来た。
「へえっ?」
またも声を漏らすことしか出来なかった俺が首を傾げると、
「先越されたけど、俺の本命もオマエだから
――
作るとか無理だったけどその店めちゃくちゃ美味いし、こんなシロートのより
――
……
何笑ってんだよ?」
どこか言い訳するよう力の抜けた五条先輩の言葉に目を丸くしていた俺だけど、どうやら笑っていたらしい。怒るってより拗ねるような先輩が押し付けてくるチョコレートを紙袋の上から抱きしめたら、金色のリボンごとグシャリと袋がひしゃげる音がした。
「これ、五条先輩が買ったの? お店の人にプレゼント用ですってお願いして?」
抱きしめ過ぎて箱まで壊してしまわないように、だけど深く息を吸い込んだら甘い甘いチョコレートの匂いが香って、俺はまた笑ってた。だらしないくらい緩んだ顔で、ふわふわと夢こごちで。
ゴクリと唾を飲むような音がして、五条先輩は俺の気持ちを掴んだままうなずいた。本命って言ってた、俺先越されてなかったし
――
きっとあのチョコも受け取ってもらえる。
「俺のチョコだって、味は悪くないはずだけど? 初めて作ったから試作したし、ラッピングはちょっと
……
いやだいぶアレだけど、負けねーもん」
先輩の本命チョコ抱きしめたまま言った俺に、俺のチョコの箱掴んでた先輩の腕がビクッと震えたのが分かった。掴んだ箱に恐る恐るって感じで向けられた視線は、それがやっと取り扱い注意な品物だと気づいた様子で。俺の顔と箱を何度も往復した視線に、
「受け取ったら、もう付き合うしかねーんだよな? つか、好きです俺と付き合ってください!!」
ここは真剣に言わなきゃなのに俺はまた笑ってた。だってこんなに嬉しいんだからシマらないのも仕方ないだろ? 勝ち確で告れるとか誰が想像できた?
「う
……
わ、うわ
…
っ、こ、こちらこそ、喜んで」
何故かカタコトになっちゃってる五条先輩の口元は俺よりシマらない状態でふにゃりと緩んだの見えたけど、慌てて隠すように手のひらで覆われてしまった。ここは薄暗く分かりにくかったけどその顔は心なしか赤い。きっと俺の顔も耳まで赤いと思う。
非常識な時間に本命チョコを携えた2人がエンカウントした結果。
俺はそのまま五条先輩の部屋に引きずり込まれて、ガトーショコラをワンホール食べ終わるまで離してもらえなかったし、初めてのキスは甘い甘い香りに包まれていた。
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