望月 鏡翠
2023-12-20 01:07:39
895文字
Public 日課
 

#1212 「旅行鞄」「苗」「偽物」

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 旅行鞄の中に入っているのは、旅の荷物などではない。もっと尊くて貴重なものたちだ。
 冷や汗をかいているのがバレないように、私は空へ旅立つ宇宙船へと乗り込んだ。何重にも偽装工作は施しているが、バレないという保証はどこにもなかった。
 態度がおかしいと見咎められたいはしないだろうか。
 ゲートを越える瞬間、警報が鳴り響いて、心臓が止まりそうになる。だが、それは私に対して鳴らされているものではなかった。当初の打ち合わせ通り、私の偽物が騒ぎを起こし、警備の目をそちらに引きつけるためのものだ。
 警備員が走っていく。担当官の注意がそちらに引っ張られる。その隙に私は、鞄を中身がチェックされたものとすり替えて、荷に滑り込ませた。
 船に乗り込みさえしてしまえば、あとはこちらのものだ。ともかく一度宇宙に出てしまえば、捕まえられない。だがそれまでが、ともかく長かった。
 偽物は、どれくらい持ち堪えてくれるだろうか。騒ぎを大きくしすぎて、出航が遅れたりはしないだろうか。
 大地を後にする瞬間には、途方もない達成感があった。私はやったのだ。滅ぼされようとしている貴重な種を脱出させることができた。だが無事に離陸すると今度は別の心配が出てくる。
 鞄に乱暴に詰め込んでしまったが、苗は無事だろうか。繊細な枝が折れてしまってはいないだろうか。一つの種がどうして人の勝手で滅ぼされなければいけないのか、私には理解できなかった。
 だから協力者の手を借りて、まだ若くて力ある苗をこっそりと持ち出したのだ。
 よってたかって一つの種を滅ぼそうとするなんて、間違っている。たとえただの緑でも、種の多様性は大切なはずだ。
 安寧の地は私が見つけて見せる。船が到着し、積んでいた荷物を受け取る。妙に膨らんでいる。
 驚いた。旅行鞄の蓋が開いて飛び出しそうなほどに、苗は枝葉が茂っていたのだ。この星の気候は、苗にとてもよく合っていたらしい。
 苗は私の手を離れ、あっという間に成長し種子を飛ばし、増え、広がっていった。
 侵略的外来種。
 その植物はのちにそう呼ばれることになり、私は投獄されることになった。