骨董屋にて、美しい椀を見つけた。螺鈿細工が美しく手触りは滑らかで、職人の手をかけた品であることが人目でわかった。他の雑多な商いの品に紛れてそれは埃を被っていたが、埃を被っていたが、指先でひと撫ですると、元の通り艶やかで吸い込まれるような漆の黒と貝の輝きを取り戻した。
一体どこの誰が作ったものなのか、どういう由来があるのか知りたくなった。
値を釣り上げられぬように、私は素知らぬ風を装いながら店主に声をかけた。
「この椀は、どんな由来があるものなのですか? これ一つしかないのでしょか」
老いた店主は、よくみるために椀から手を離さなければならなかった。
明かりに照らし埃を払い、目をすがめて見つめると、記憶に降り積もった埃も少しは晴れたらしい。
「こいつは椀じゃなくて、船だな」
私は店主が耄碌していることを確信した。そんな小さな船に人が乗るものか。
「その昔、指の先程の小さな人がいたのさ。ほら聞いたことがあるだろう。昔話で」
そんな風に店主は語り始めた。
変わった出自を持つものの運命として、その小さな人もまた旅に出て鬼を退治する運命を背負っていた。旅立ちに際して、彼の養い親は彼のために、専用の船を設えた。とはいえ、船大工はそんな小さな水が漏れない船は拵えたことがない。
だから漆職人に、雅な椀として作らせた。
小さき人はそれに乗って、川に流されていった。一世一代の大冒険だ。
だが小さな椀で急流や滝を越えられるわけがない。小人は途中でひっくり返り、川に流された。そのあとは魚の餌になったか、鳥に食われたか。
虫と変わらぬ最後だった。
だが椀は木でできていて軽いから、ひっくり返っても沈むことはなくぷかぷかと海まで流れ着いた。
俺は渚を歩いていたときに、きらりとひかるものを見つけた。近づいて拾ったのが、これだったのさ。どうしてこれが小人のものだとわかるのかって?
小さい人にとっては、数日かかりの距離であっても普通の大きさの人間にとっては散歩でふらっと出歩ける場所だ。その最後を、みんな見ていたからさ。
助けなかったさ。養い親も当然、手は貸さなかった。だって気持ちが悪いだろう。小さい人間なんてさ。
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