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ナガレ
2023-11-03 20:42:01
2191文字
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SSまとめ(その5)ぶぜまつ ※まとめ途中
すべてページメーカーで作って上げたもの、もしくはポイピクからの再録です。(ワンライ企画作品)
【秋、夜】
ぶぜまつwebオンリー「ぶぜまつハロウィーンパーティー!」開催記念ワンドロワンライ企画で書いた話。
とある秋の夜。桑名江は打刀達の集まりに参加していた。不定期に開催されるこの集まり。対外的には「刀種の同じ者達が親睦を深める場」と称しているが、蓋を開ければ有志達によるどんちゃん騒ぎの場である。集まりに参加するもしないも自由、途中参加も中座も自由。他の者に迷惑をかけない事だけが決まりだった。
たまには顔を出そうかなと、桑名は久しぶりにこの集まりに参加した。広間を一つ貸し切って、各々好きなものを持ち寄り好きに過ごす。前に参加した時と何も変わっていなかった。隣に座った男士と話をしたり、次々に出てくるつまみや肴(中には献立の試作品もいくつかあり、それらは争奪戦だった)で酒を嗜んだり。
それなりに場を楽しんでいた桑名だったが、一足先に退席する事にした。明日も朝から畑仕事がある。またなと見送られながら、桑名はのんびりと自室に向かった。酒精で火照った頬に秋の夜風が気持ちよかった。夜が更けるにつれて一振り、二振りと出て行き、最後まで残った者達は広間で朝を迎えるのだろう。朝餉は厨当番に頼んで胃に優しくて消化に良いものを用意してもらった方がいいかもしれない。ついでに二日酔いに効くというシジミの味噌汁も用意してもらおうか。
そんな事を考えながら廊下を歩いていると、桑名は縁側に腰掛けたよく知る姿を見つけた。
――
同胞、豊前江だ。豊前も集まりの場に顔を出していたが、桑名よりも先に中座していた。戻ってこないので朝から遠駆けの予定でもあるのかと思っていたが、この時間になっても起きているという事は違うのだろう。庭で一振り虫の声を愛でる雅な一面があるとも考えにくい。自分よりもずっとやんごとなき家にいた彼だからもしかしたらそういう一面があるのかもしれないが、桑名の知る限りそんな一面は見た事がなかった。
「
……
豊前?何しとるん?」
「桑名。しー」
桑名の足音に気づいた豊前がこちらを向いた。そして人差し指を立てて口に当てる。
……
あぁ、そういう事か。豊前の視線につられて視線を動かした桑名は理解した。てっきり豊前だけだと思っていたが、実はもう一振りいた。豊前の膝を枕に寝息を立てているのは松井江だった。
「松井に誘われて、ちっとな」
いつもは遅い時間まで参加している豊前が早い時間にいなくなったのも合点がいった。このところ松井は事務部屋に籠もりっぱなしだったから、集まりがあるのを知らなかったのだろう。山姥切長義を筆頭とする事務方男士がやっと解放されたと言って集まり参加していたから、松井も久しぶりに豊前とゆっくり話がしたくて誘ったのかもしれない。
松井に誘われたら豊前はまず断らない。少し遅い時間を指定して、松井の誘いも受けたのだろう。うん。たぶんこれで合ってる。桑名は一振り心の中で頷いた。
「話してるうちに舟漕ぎだして、倒れてきたと思ったらそのまま」
曰く、部屋に戻るかと聞いても大丈夫だからもう少しと言い張り、それを何回か繰り返した結果こうなったらしい。豊前の膝で完全に寝入っている松井。普段、自分も豊前の膝枕を体験してみたいと言い出せない事を桑名も、何なら豊前も知っている。知っている上で松井に自分から言って欲しい豊前のことだから、松井が目を覚ます前に肩に凭れさせるのだろう。これは豊前にとっても松井にとってもノーカウント。観察は得意だ。桑名は自分の読みが大筋で当たっていると確信している。
「風が出てきそうだね。起こす?」
「いや。まだいいっちゃ」
「じゃあ、何か上に掛けるもの持ってくるよ」
「ん。頼む」
はらりと、豊前の指が松井の髪の毛を掻き分けた。松井に向けるまなざしはひどく優しくてやけに甘くて、見せつけられているこちらが胸焼けしてしまいそうだ。松井が豊前の事を慕っているのは周知の事実だけれど、豊前も豊前で松井のことを大事に想っている。その事を松井は知らない。気づいていないのか、それとも気づこうとしないのか。こんなにも大切に扱われているのにね。桑名は呆れるしかなかった。
人の子の言葉に他人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて何とやらと言うのがあるけれど、馬に蹴られないと何の進展もなさそうだ。同胞を応援する気も野次を飛ばす気もないが、いい加減どうにかなってほしいと思う。これは桑名だけではなくて、二振りを除く江の者達の総意だった。
「ちょっと待ってて。二枚持ってくる」
そう言って立ち去る桑名の足音。それが完全に消えたところで、豊前は松井の頬に触れた。いつもはどこか遠慮している松井が、今は無防備に寝顔を晒して寝入っている。白い月明かりに照らされる松井。それを見ていると、胸の奥から衝動が湧き上がってくる。湧き上がってくるものは感情。刀の時には知らなくて、この器を得てから知ったもの。この感情の名前に心当たりはある。あるけれど、今はまだ気づかないようにしている。きっと止まれないだろうから。
「
……
綺麗っちゃ」
思わずそう呟いてしまいたくなるような秋の月。小さく身動いだ松井が目を覚ます気配は無い。
――
さっき桑名は風が出てきそうだと言っていた。ならば、月にかかるあの雲を流してはくれないか。綺麗なものを、今しばらく眺めていたかった。
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