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ナガレ
2021-09-02 20:43:17
2462文字
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松井と篭手切の話
お疲れモードの篭手切と話を聞く松井について。松井&篭手切のコンビも好きです。
とぼとぼ。
そんな擬音が相応しい足取りで篭手切江は廊下を歩いていた。今日は朝から何をやってもうまくいかなかった。寝癖はちっとも直らなかったし、朝餉で卵かけご飯にしようとした卵は割るのに失敗した。履こうとした靴下は片方見つからず、何も無いところですっ転んだ。
江の者は増えたが、六振り揃ってれっすんをしたのは数える程度。都合のついた二振り、三振りで空き時間を見つけてれっすんをしているが、たまには六振りみんなでれっすんがしたい。
今日は誰も都合がつかなかったので自主練をしていたが、一振りだけは寂しかった。最初は一振りきりだったのに、いつの間にか仲間がいるという事に慣れてしまったみたいだ。一振りきりだと上手にできても誰も何も言ってくれないし、失敗したって何もない。こんな調子でれっすんを続けても怪我をするだけだと、早々に今日の自主練は切り上げた。
こんな日は我らがりいだあ豊前江の膝を借りるのだが、今はそんな気分にもなれなかった。気落ちしたまま篭手切は自室の前を通り過ぎた。そして隣の隣の隣の部屋の前で立ち止まる。その部屋の障子は少しだけ開いていた。
「
……
松井さん、いますか?」
「篭手切?」
篭手切が障子の隙間から部屋の中を覗き込むと、文机に向かって何やら書き物をしていた松井江が顔を上げた。松井は審神者に仕事を頼まれたと言っていた。もしかしたら邪魔をしてしまったかもしれないと、篭手切の眉尻がハの字に下がった。
「どうぞ」
変な気を回さなくてもいいと、松井は篭手切を部屋に招き入れた。自分よりもずっと早くに顕現した旧知の同胞。彼はしっかり者だし物事を達観できるし、脇差の性分なのか世話焼きだ。でも、精神が肉体年齢に引っ張られている時がある。彼はその姿を他の同胞にはあまり見せたくないらしい。
少し躊躇った後、すっと障子が開いて篭手切が入ってくた。障子を後ろ手で閉めると、篭手切は松井の横に腰を下ろした。しかし黙り込んだままだ。松井が「何があったんだい?」と水を向けると、篭手切は三角形に立てた膝に顔を埋めながら今朝からの出来事をぽつぽつと語り始めた。
「寝癖が直らなくて」
「珍しいね。今はすっかり直っているみたいだけど」
「朝は卵を割るのに失敗してしまうし、洗ったばかりの靴下は片方見つからないし、気を取り直して散歩に行こうとしたら転ぶし」
「それは災難だったね。怪我は?」
「ないです」
「それならよかった。それで?」
松井は続きを促した。自分の事を棚に上げるわけではないが、言いたい事は溜め込まず言ってしまった方がいい。ここには松井しかいないのだから。
「さっきまでひとりでれっすんをしていたんです。この間言っていた振り付けがやっと上手にできました」
「おめでとう。僕も見たかったな」
「でも、もう一度やろうとしたら失敗して。結局上手くできたのはその一回きりだったんです。情けない
……
」
「この仕事が終わったられっすんするかい?付き合うのが僕でよければだけど」
その言葉に篭手切がぱっと顔を上げた。しかしすぐに伏せてしまう。忙しいのに申し訳ないとでも思っているのだろうか。兄や保護者を自称する男士達の手つきを思い浮かべながら、松井はぎこちない手つきで篭手切の丸い頭を撫でた。
「篭手切が覚えた振り付けを見せてほしいし、僕にも教えてくれないか。次のれっすんで完璧に決めてみんなを驚かせよう」
「
……
はい!」
松井の提案に嬉しそうな声色で返事をする篭手切。元気で出たみたいで良かったと松井が安堵していると。ふぁ、と小さなあくびが聞こえてた。
「すみません。お恥ずかしいところを
……
」
「疲れたんだろう?豊前のような心地よさはないけれど、使うかい?」
軽く膝を叩く松井。一呼吸置くと、ぽすんと篭手切が倒れ込んだ。軽く体を丸めて、収まりのいい場所を探している。
「今日は何だか疲れました。おやつの大福も食べ損ねてしまったし
……
」
「万屋街の甘味処から取り寄せたらしいね。実は僕も食べていないんだ。今度ふたりで食べに行こうか」
「行きます」
即答したものの、篭手切は眠たそうだ。少ししたら起こしてあげるよと言って松井は篭手切の眼鏡を預かった。しばらくすると、重みを感じる膝の上から健やかな寝息が聞こえてくる。篭手切も寝付きの良い方だ。江の者で寝付きが悪いのは松井、次いで村雲江。ちなみに朝に弱いのもこの二振りだったりする。
「
……
お疲れさま」
松井に世話を焼く相手はいない。元の主の影響でつい小言が飛び出してしまう相手はあるが、世話を焼くのとは少し違う。たまにはこういうのも悪くないと松井は思った。
この書き物が一段落したら自分も少し休む事にしよう。松井は静かに帳面に筆を走らせた。
――
それから小一時間後。
畑仕事を終えた桑名江は、とある部屋の前で団子になっている同胞達を見つけた。
「
……
何しとるん?」
「桑名、しー」
そう言って人差し指を口に当てる団子の一つ、豊前。紫色の団子と桃色の団子も頷いている。ここは松井の部屋だ。一体何があるのだろうかと、少しだけ開いている障子の隙間から桑名は部屋の中を覗き込んだ。
(これはこれは
……
)
文机に突っ伏しているのは松井で、その足下で寝ているのはおそらく篭手切。二振りとも熟睡しているのか、覗かれている事に気づいて起きる様子は無い。松井は書類仕事があると言っていたし、篭手切は自主れっすんをすると言っていた。仕事やれっすんで疲れたのかもしれない。
しかしもうすぐ夕飯の時間だ。ぐっすりと眠る二振りを起こしてしまうのは忍びないが、このままでは食いっぱぐれてしまう。桑名は団子三振りを散らすと部屋の中に入った。起こしたら、収穫した野菜を厨に届けた時に聞いた事を教えてあげよう。今日は夜ご飯のおかずは篭手切の好物なんだよと。
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篭手切、松井にはりいだあ相手とは少し違う懐き方をしてたらいいなっていう妄想。
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