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ナガレ
2021-02-01 19:11:38
4471文字
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Dear,戦友(ぶぜまつ)
加州清光はかく語りき。加州と松井とぶぜまつ、あと審神者。
ぶぜまつ幸せになりやがれー!という思いをぶつけてみました。
「ねぇ」
主、知ってる?と、今度の朝礼で全刀剣男士に配布する書類にホチキス止めをしながら、初期刀の加州清光が審神者に切り出した。
「あの二振り、契りを交したんだって」
それは青天の霹靂
――
ではなく、すでに審神者の知っている話だった。加州の言うあの二振りこと、豊前江と松井江。顕現初っ端から松井は「豊前は僕の理解者」と言って憚らなかったし、豊前もそれを普通に受け入れていた。ある時を境に元々近かった距離がさらに近くなったこの二振り、そこからしばらくすると恋仲になったんだなと誰もが察するぐらいにもっと距離が近くなった。
契るの意味は様々あるが、この場合は婚姻というのが一番近い。枕を交わして一夜を共にしましたの方ではない。審神者は今でもしっかりと覚えている。気を利かせて二振りきりで半日がかりの現代遠征に出したあの日、そろそろ帰還時刻だという頃に突然豊前から通信が入った時の事を。
――
悪ぃ足止め食らったから帰還できんちゃ戻りは明日になるかもしれん松井も一緒にいる。じゃ!
審神者は豊前江の怒濤の早口を初めて聞いた。当然審神者が口を挟む余裕は無く、文字通り有無を言わせぬまま通話は切れた。もう少し何か誤魔化しようがあったのでは
……
というのは、隣で二振りの帰還を一緒に待っていた篭手切江の言葉だ。一気にまくしたてられ、篭手切も口を挟めなかった事は想像に難くなかった。
ちなみに二振りは翌日の昼前に帰還した。悪天候で交通機関が止まり、帰還するための転送場所まで移動できなかったらしい。無理に戻るよりもこちらに留まった方が良さそうだと判断し、何とか宿泊場所が確保できたので連絡したというのが事の顛末だ。それならそう言って欲しかった。
この日、豊前が松井に対してやけに甲斐甲斐しかった事は言うまでもないだろう。
「あの二振りって、豊前江と松井江の話?それなら知ってる知ってる。一応、報告があったからね」
「そっか。二振りだけでひっそりと誓いを立てた聞いたから、まだ知らないと思ってた」
「聞いたって誰に?」
「当事者。松井の色んな相談に乗ってたの俺だよ」
――
何が変わるというわけではないけれど、加州には色々と世話になったからちゃんと伝えておきたくて。
加州はこの目出度い話を、どこか照れくさそうな松井から直接聞いたという。審神者のところに来たのは豊前だった。今思えば、豊前は色々と含みを持たせていた。松井と契ったからその辺り配慮をよろしく頼むと、暗に便宜を図ってほしいと言われたような気がする。
「だからさ、あの二振りが契りを交わすところまでいったのかと思うと、何だか感慨深いんだよね。松井の奴、ずっと悩んでたから」
最初から豊前が松井のことを江の者達の中でも特別扱いしているのは明らかだったのに、松井はそれを信じていなかった。誰の目に特別だと見えているのに、松井だけが信じていなかった。自分が想いを寄せているだけだからと頑なだった。豊前は優しいから、親切だから、面倒見がいいから、そういう男士だから。加州は耳にタコができるぐらい同じ台詞を聞かされた。
松井から何か行動させるのは無理だ。自分の思い込みに雁字搦めでほぐすのは難しそうだし、梃子でも動きそうにない。そう判断した加州は、いい加減どうにかなりやがれと豊前の方に発破をかけた。どんな風に発破をかけたのかは、豊前(と、一応松井)の名誉のためにここでは言わないことにする。加州自身も、あれは少々強引だったと反省しているのだ。
その後、あっという間に二振りのお付き合いは始まった。加州の言っていた事はすべて本当だったと、松井からは礼を言われた。そう、松井が豊前の好意を素直に受け止めれば一瞬にして片のつく話だったのだ。豊前が松井にどうやって受け止めさせたのかは
……
まぁ、野暮だから聞いていないけれど。
「恋仲は何振りかいるけど、誓いまで立てたのは初めてだよね。何かお祝いしてあげたいんだけど、主はどう思う?」
「お祝いかぁ
……
」
「そう。また主達の時代に二振りきりで遠征させて、はねむーんとか。物より思い出がいいと思うんだけどなぁ」
「うーん
……
遠征は難しいけど、離れで二泊ぐらいなら何とかなるかなぁ」
屋敷の庭の向こうには離れがある。刀剣風邪(人間でいうところのインフルエンザみたいなものらしい)に罹った男士を隔離する必要がある時や、審神者業が修羅場で閉じこもりたい時ぐらいにしか使っていないが、普段から建物の掃除や手入れは怠っていないので綺麗だ。
本丸の中だと常に誰かの目があるから、新婚(という表現が当てはまるのか微妙なところだが)の二振りには辛いだろう。お付き合いを始める前から周囲を勘違いさせる程に距離が近く、お付き合いを始めてからも四六時中(時と場所と場合はわきまえて)いちゃついているとはいえ、今の彼らは新婚なのだ。誰にも邪魔されない二振りだけの時間があってもいいだろう。
そう結論づけた審神者は、契りの祝いとして二振りにちょっとした非日常をプレゼントする事にした。加州もそれ同意した。審神者の何十倍も乗り気だった。
「
――
というわけで、主と初期刀の俺からのお祝いでーす」
「食事はこちらで一緒に食べてもいいし、離れには小さい厨もあるから自分達で用意してもいいよ」
翌日、控えの間。加州がリボンをつけてデコった離れの鍵を審神者から差し出され、とりあえず豊前はきょとん顔で受け取った。隣では松井が加州から愛されお手入れ道具一式を渡されていた。ローションパック、ヘアパック、ボディクリーム
……
どれも加州お勧めの逸品らしい。力説する加州には悪いが、審神者と豊前にはさっぱり何が何やらわからなかった。松井も半分ぐらいしかわからなかった。
「おい、主。一体これは何だ?」
「何って、お祝いだよ。契りを交わしたって聞いたからね」
「もしかして豊前、僕達のこと主に言ったの?」
「こーいうことはちゃんと報告するべきだろ。
……
色々と融通してもらいてーし」
最後の方は小声だったので松井の耳には入らなかったが、審神者の耳にはしっかりと届いた。やっぱりこの刀、暗に便宜を図れと言っていた。今度二振り揃って畑当番にでも入れてやろう。それがいい。審神者は脳内の当番表の畑当番欄に大きく豊前江・松井江と書いた。
「もー、主。言葉が足りてないって。要するに、離れで思う存分いちゃついてきていいよってこと。三日しかないのが申し訳ないけど」
「三日も抜けて大丈夫かい?その、書類とか
……
」
加州の要約を聞いた松井が心配げに審神者を見やった。書類溜めちゃった山姥切長義に見つかる前に助けてお願いもうすぐ鬼がやって来ると、よく審神者泣きつかれているからだ。
「大丈夫!期日の近いものはもう終わってるからね!」
「急ぎの仕事が回ってきても俺が手伝うから、松井は気にせず豊前を独り占めしておいでよ」
「う、うん
……
加州がそこまで言うなら
……
」
ぽ、と頬を染めた松井は下を向いてしまった。あとは豊前の意向だ。豊前がお祝いを受け取ると言えば、松井もそれに従うだろうから。審神者は豊前にどうするつもりか問い掛けた。
「豊前江はどうする
……
って聞くまでもないな」
審神者が渡した離れの鍵はいつの間にか豊前の内番着のポケットに入っており、デコレーションのリボンがちょこんとはみ出ていた。
「どうするって言われても、断る理由なんて無いっちゃ」
堂々とそう言い切る豊前に、審神者はそうですよね~としか返せなかった。
「離れは今から使えんのか?食事は自分達で用意する。松井もそれでいーだろ?」
「豊前がそう言うならそれで」
「ほんと、松井はそればっかりなんだから」
豊前は相変わらず行動に移すのが早い。松井の決定権を委ねる姿勢も相変わらずだ。松井は自己主張が弱い方ではないのだが、豊前が絡むと万事この調子だ。加州は松井の台詞に少しだけ膨れた。膨れた加州を審神者がまぁまぁと宥めた。気持ちはわからなくもない。
「悪いけど、離れに移動するのは夕食後で。念のため、設備に不具合がないか見てくるから。で、明日は三食とも自分達で用意ってことでいいかな?」
「それでいいっちゃ。まつ、何食べたい?三食全部、食べたいもの作ってやんよ」
「本当?豊前が作ってくれるなら何でも嬉しい」
「ほーと、欲の無い奴っちゃな。何か一つぐらいはあるだろ?」
「食べたい物
……
うーん、それなら前に作ってくれた卵と赤いご飯のやつがまた食べたい」
「おむらいす?いーよ、任せとけ。主、後で材料だけ適当に貰っていくから」
「お好きにどうぞ
……
って、早速いちゃついてるし」
「主、諦めなよ。こいつらに何言っても無駄だから。バレてるならもういいよねって開き直ってる」
こうして話はとんとん拍子に進み、今夜から豊前と松井は離れで過ごすことになった。篭手切と桑名には一応伝えるけど、他の者達には恥ずかしいから言わないでと松井が言うので、加州は夕食後にこっそりと裏口から送り出す事にした。
「じゃ、行ってらっしゃーい」
「そう言われると何だか恥ずかしい
……
」
「何言ってんの。豊前が待ってるよ」
「うん
……
」
「言いたいこと全部ぶちまけてきな。ほら、」
愛されておいでと、加州は松井の背中を叩いて送り出した。松井の恋の相談相手であり、戦友として。一緒に泣いて笑って一喜一憂して、後ろ向きになる松井を叱咤した事もある。加州は松井の想いが移り変わる様をずっと見守り続けた戦友なのだ。
「
……
うまくやれよ、豊前。そうじゃなきゃ、認めてやらないんだからな」
松井の不安を取り除いてやってほしい。俺じゃ力不足だからと、加州は心の中で豊前にエールを送った。
――
翌々日の夕方、二振りがこっそりと戻ってくるところに出くわしたのも加州だった。松井を見つけた加州は、にっと笑った。戻ってきた松井はとっても可愛く、そして綺麗になっていた。きっと、松井の心を満たすものがあったからだ。うん、合格だ。
いつだってこの二振りに足りないものは時間と場所だった。本当は聞いてもらいたい松井の言えない事を、豊前が一つずつ紐解いて掬い上げていくための、誰にも邪魔されない時間と場所。
だから加州は審神者に、二振りきりにさせてあげてほしいと進言したのだ。契りを交わしたのにまだ不安で一杯の松井には、遠慮せずぶつかっていくためのきっかけが必要だろうと思ったから。
松井が秘めた想いに苦しんでいた頃からずっと見守り、言えない話を聞いて、寄り添ってきた加州にしか分からない変化がここにあった。花が開くというのは、こういう事を言うんだろうなと思う。
良かったねという気持ちに、これでお役御免かなというほんの少しの寂しい気持ちを乗せて、加州は戦友を出迎えた。
「おかえり。しっかり愛されてきたみたいじゃん」
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