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ナガレ
2020-12-31 14:14:56
2347文字
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仕事納め(ぶぜまつ)
仕事納めたまついが膝枕されてる話。Spring has comのぶぜまつと同じふたり。ページメーカーで作ってあげた小ネタの再録です。
「終わった
……
」
師走の三十日、缶詰状態だった執務部屋からようやく解放された松井江は、ふらふらとよろめきながら自室に向かっていた。
弥生の終わりに経験した修羅場に比べればかわいらしいものだが、それでも丸三日は朝から晩まで執務部屋に籠もりきりだった。まさか山姥切長義と固い絆で結ばれる事になるとは思わなかった。二振りでこなすのは辛い。次回があれば誰か引きずり込もうと約束した。
書類仕事を手伝った代わりに、明日の本丸総出の大掃除は免除してもらった。というか、駆け引きに使わせてもらった。年内提出期限の書類仕事を手伝う代わりに免除しろと主に迫ったのだ。鬼の顔した長義が。
新年松の内が明けたら、年度末に提出する書類一式の進捗を確認しなくては。同じ轍を踏んではならない。あの弥生の終わりを忘れてはいけない。
酷使した右手の腱鞘炎が痛くてしばらく箸を持つのも辛かったし、飲みすぎたエナジードリンクもブラックコーヒーもしばらく見たくなかった。
「
……
眠い」
目がしょぼしょぼするというのは、この状態を言うのだろう。自室に辿り着いた松井は目を擦りながら暖房器具のスイッチをオンにすると、そのまま畳の上にごろんと横になった。倒れ込んだら最後、もう一歩も動きたくなかった。
うとうと、うつらうつら。目を閉じると意識が遠ざかっていく。
――
数分後、松井の意識は完全に途切れていた。
「
……
松井?」
豊前江は松井の部屋の障子を開けて驚いた。体を丸めた松井が部屋の真ん中に転がっていたからだ。こんな姿は初めて見た。よほど熟睡しているのか、障子が空いた事にも豊前が呼びかけた事にも松井は気づかなかった。
松井を探していた豊前が執務部屋を覗くと、仕事を終えた主が松井は部屋に戻ったと教えてくれた。その足で松井の部屋を訪ねてみると、暖房器具の動いている音は聞こえてくるが部屋の外から呼び掛けても返事が無かった。
ここで突っ立っているわけにもいかないので、確認の意も込めて障子を開けてみると、部屋の中には力尽きて眠っている松井の姿があった。
「こんなところで寝てると風邪ひくぞ」
豊前が午睡を貪っていると松井によく言われるお小言そのまま返してみたが、松井が目を覚ます気配は無い。完全に寝ている。
熟睡しているのを起こすのも忍びない。でもこのままだと風邪をひく。いくら刀剣男士とはいえ、肉体は人の子と同じなのだ。手入れで治るというだけで。
豊前は座椅子の背もたれに掛けてあった大判の膝掛けを広げて松井の体に掛けた。青色を基調としたあたたかな膝掛けは、夜遅くまで帳簿つけをしている松井のために同派の皆で差し入れたもので、松井のお気に入りだ。篭手切の審美眼を信じて正解だった。豊前と桑名は資金を多めに提供し、選ぶのは篭手切に一任していた。
「話したいことあったけど、寝てんなら後にすっか」
元日の朝、同派で初詣に行く前に二振りきりで初日の出を見に行かないかと誘うつもりだった。本丸から少し離れたところに、松井の気に入りそうな静かでなかなか良い感じの穴場を見つけたのだ。
二振りきりで抜け出したとしても、篭手切と桑名は何も言ってこないだろう。あの二振りにはそういう関係だと知られているから。
寝ているなら仕方ない。このまま松井の部屋を後にしようと踵を返しかけた豊前だが、ふとある事を思いついた。篭手切や桑名には「りいだあの(豊前の)膝は気持ちよく眠れる」と言われる事が多い。二振りの言い分を信じるなら、松井も気持ちよく眠れるのではないのだろうか。
床に転がるよりマシかもしれない。豊前は松井の隣に座り込んだ。起こさないようにそっと松井の頭を持ち上げ、静かに胡座をかいた足の上に下ろしてみる。むずがるように松井が身動ぎしたが、すぐにおとなしくなった。
ずり落ちた膝掛けを再び松井に掛けてやる。滑らかな黒髪を梳いていると、松井が寝返りを打ってこちら側を向いた。その寝顔はすこぶる穏やかで、気持ちよく眠れているようだ。
「
……
お疲れさん。主の先延ばし癖もどうにかしねーとな」
このままだと、また弥生の終わりに松井を主に取られてしまう。細かい数字や文字がびっしり書いてあるものは苦手なので書類仕事には向いていないが、主の尻叩きぐらいなら豊前でもできるだろう。
主の先延ばし癖が契機となって松井と想いを通じ合わせた豊前だが、契機となっただけでもう一度体験するのは御免こうむりたい。顔も合わせない日々は地味に堪えた。
霜月の終わり、待ちに待った松井の軽装が仕立て上がった。今度の春は修羅場やすれ違いじゃなくて、めかしこんだ松井と花見がしたい。
花より団子の豊前だが、松井と団子なら考えるまでもなく団子より松井だ。あの軽装を纏った松井の姿は桜景色にきっと映える。今からとても楽しみだ。
「ちっと早いけど、来年もよろしくな」
眠る松井にふっと笑いかけると、豊前は起こさない程度の力加減でふにふにと松井の耳朶やら頬やらをつついた。この数日、顔は合わせていたものの、ろくに言葉を交していない。豊前は松井の声が聞きたかった。起こすつもりは無いけれど、早く目を覚ましてほしい。
ゆっくりと瞼が開き、緑青色の瞳がこちらに向くところが見たかった。まだ夢うつつの松井におはようと言ったら、どんな顔をするのか見たかった。
豊前の思いが届いたのか、松井が目を覚ますまであと少し。目を覚ました松井が膝枕をされている事に気づくまであと少し。
気づいた松井が思わず大声を出しそうになって、豊前がその口を塞ぐまであと
――
――――――――――
この後、寝起きにぶぜから熱いの喰らうまつ。
お疲れさまってことで、甘やかされコースに突入。
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