午前六時。スマートフォンのアラームが鳴った。枕元を漁りアラームを止めると、豊前はのそりと上半身を起こした。隣で眠る恋人はまだ夢の中だ。
起こさぬようにそっと寝床を抜け出すと顔を洗う。目が覚めた。そのまま台所に向かい、冷凍庫の中にあった冷凍ご飯を電子レンジで二人分解凍。電気ポットの湯を注いでインスタントの味噌汁をつければ立派な朝食の出来上がりだ。
豊前がテレビをつけて天気予報と交通情報を見ながら朝食を摂っていると、背後でおはようとまだどこか眠そうな声が聞こえた。目を擦りながら松井が起きてきた。
「おはよ。朝飯どうする?ご飯と味噌汁しかねーけど」
「あるなら食べる…」
松井がダイニングテーブルの対面に座ると、豊前は温めたご飯とインスタントの味噌汁を松井の前に置いた。いただきますと手を合わせた松井がもそもそと食べ始めたのを確認すると、豊前はシンクに食べ終わった食器を置いて洗面所に引っ込んだ。
「松井ー、悪いけど洗い物よろしく。早番だからもう少ししたら出る」
豊前は松井に声を掛けた。着替えたら家を出る時間だ。
「もうそんな時間?」
「そんな時間。今日も遅くなりそうか?」
「今日は定時で帰れって言われてる日だから、いつもより早く帰れる」
「それなら夜は外で食るべか」
「いいね」
平日の夜早い時間に二人が揃う事は少ない。豊前が夕飯を作って松井の帰りを待っているのも大変魅力的だが、たまにはディナーデートと洒落込みたい。松井は豊前のお誘いに一も二もなく即答した。
「決まりだな。駅まで迎えに行く」
「本当?会社を出たら連絡する」
松井の嬉々とした返事に豊前も嬉しくなる。恋人を駅で待つというシチュエーションを一度やってみたかったのだ。
「何か食いたいものあればメッセージ送ってくれ。店探しとくけん」
「んー……豊前と一緒なら居酒屋でも牛丼屋でもいいんだけど」
「相変わらず欲のない奴ちゃ」
「そんなことないよ。…あ。豊前、そろそろ時間じゃない?」
「マジか。行ってくる」
「行ってらっしゃい。また夜に」
行きがけに軽く松井の頬にキスをして出ていく豊前。二人の間にはいつの間にか先に家を出る方が行ってきますのキスをする習慣が出来ていた。
玄関のドアが閉まると、松井は気を抜くと緩んでしまいそうな顔を両手で覆った。別に誰もいないので隠す必要はないのだが。
(豊前と平日の夜に外でご飯食べるの、いつぶりだろう……)
合わせようとしない限り二人の休みはなかなか合わないし、普段の帰宅時間も合わない。期日の近い仕事が山積みなのに定時で帰れとは無茶を言うなと内心立腹していた松井だったが、今は素直にありがとうと言いたい。
今日はいつもの三倍速で仕事が進みそうだ。
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新婚さんですか?いいえ、未婚の同棲カップルです。
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