ナガレ
2020-11-28 21:25:07
3115文字
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柘榴に酩酊(ぶぜまつ)

収まらない豊前と収まっていたはずの松井の、戦闘後に興奮したまま雪崩れ込み・・・かける話。

終わってみれば満身創痍、まさに敵味方入り交じる乱戦だった。刀装も傷だらけで、吹っ飛んでいかなかっただけでも御の字だ。手合わせでも演練でもこれだけ刀を振った事はない。散々打ち合った手はまだ痺れている。誰もが高ぶったままの神経を静める事に精一杯だった。それは松井江も例外ではなく、頬や額の返り血を拭い、荒い息を落ち着けていた。

……おや?転送装置に不具合が出ているみたいだ」

そんな中、いち早く冷静さを取り戻した部隊長のにっかり青江が、主から持たされているからくり盤を弄りながらそう呟いた。うまく本丸と交信できないらしい。転送装置はうんともすんとも言わないが、審神者と音声のやりとりはできたので転送装置の不具合を報告する青江。本丸でも不具合を検知していたらしく、現在修理中との返事が来た。

「しばらくこの場で待機することになりそうだね」

この時代に現れた時間遡行軍はとりあえず殲滅した。周囲を探っても敵軍の気配は無い。あまり遠くにいかなければ大丈夫だろうと判断した青江は、一時待機を宣言した。
木陰で休む者もいれば、近くを散策しようとする者もいる。その中で向こう傷をつけた豊前江がちらと松井を見た。

「豊前?」

視線に気づいた松井が駆け寄るのを待たず、豊前は静かに歩き出した。一体どこに行くつもりなのだろうか。松井は豊前を追いかけた。
松井が先を行く豊前についていくと、あぜ道の向こうに半壊した粗末な家屋が見えてきた。この辺りに住む農民の家だったのだろう。戦の前にこの地を去ったのか、それとも……。その物陰で豊前は足を止めた。後を追ってきた松井も立ち止まった。

「何かあったのかい?」

松井は豊前に尋ねた。振り返った豊前は少し困り顔だったが、その紅玉色の瞳だけは爛々と熱を帯びて光っていた。

「収まりそうにねーっちゃ」

豊前の言葉に松井は合点がいった。戦闘後に感情が高揚したままなかなか収まらないという事はある。本丸に帰還していれば道場で木刀を持って手合わせをすることもできるが、さすがに抜刀はまずいだろう。なので今は素手の組み手ぐらいしかできない。体術に自信は無いので豊前には申し訳ないが、取っ組み合いの喧嘩だと思えば少しは相手になれるだろう。したことないけれど。

「そういう時もある。いいよ、付き合う」
……悪ぃ」

謝罪の一言とともに、豊前の手が松井の胸ぐらを掴んだ。――いくら何でも性急すぎるぞ豊前。咄嗟に松井は受け身を取ろうとした。しかし予想した衝撃は来なかった。代わりに来たのは、近すぎる豊前の顔面だった。

……っ!」

突然すぎて、口吸いをされていると気づくのに遅れた。思わず二歩、三歩と後ずさると、どんと背中が何に当たった。廃屋の塗壁だ。前門の豊前、後門の壁。松井は逃げ場を失った。危険信号が灯ったが、現状を打破する方法が思いつかない。唇が押し当てられているのを感じることしかできなかった。
掴まれていた胸元から手が離れ、閉ざされていた豊前のまぶたがゆっくりと開いた。文字通り目と鼻の距離で目が合って、松井の心臓がどきりと跳ねる。視線が交わった一瞬はまるで永遠のようだった。思わず見惚れてしまった松井だったが、次の豊前の行動で咄嗟に声を上げた。

「ちょっと!だめだって!」
「無理」
「そんなこと言われても……痛っ」

飾り紐を外され、ロングジャケットが肩からずり落ちた。そのまま空色のリボンタイが解かれ、一つ二つとシャツのボタンを上から外される。これ以上は腕から胸元にかけて覆っている手甲を外さないと無理だと察したのか、豊前が眉根を顰めた。
それでもぐいと引き寄せられ、開いた隙間からおそらく噛まれた。先の戦闘で豊前は最前線にいた。一番血を浴びる位置で荒ぶるのは分からなくもない。だが、これはまずい。ボトムスを吊っている金具に手が掛ったところで、さすがの松井も慌てて豊前を制止した。

「これ以上は洒落にならないから!」

だから今はこれで我慢してと、松井は豊前の顔を両手で挟むと口を重ね合わせた。松井の行動に一瞬だけ豊前が静止したが、すぐに応戦してくる。その食らいつきっぷりに、まるでこのまま食べられてしまいそうだと松井は思った。
熱い吐息にずるずると力が抜けていき、ついにはぺたりと地面に座り込んでしまう。それでも豊前は止まらない。力強く腰を抱かれた勢いで、下げた刀同士がぶつかり合って音を立てた。
舌を吸い上げられて息が苦しい。限界まで深く深く重ねられたわずかな隙間で息継ぎをするが、それも追いつかず酸欠になりそうだ。頭がくらくらするのは酸素が足りないからか、それとも静めたはずの高ぶりを引きずり出されたからなのか。松井にはどちらかなんてもう分からなかった。

「足りねー……

豊前に後頭部を押さえ込まれ、松井もまた腕を伸ばして豊前を掻き抱いた。揃いも揃って火がついてしまったらどうしようもない。松井はもうどうにでもなれと捨て鉢だった。まだ転送装置が直りませんように。呼ばれませんように。ただそれだけだった。



――帰還するよ!」

どれくらいの時間、没頭していたのだろうか。豊前と松井は青江の集合を促す声で我に返った。瞬時に起き上がってぱっと離れると、そそくさと乱された衣装を正す。松井はボトムスこそ死守していたが吊っていた金具は片方外れてシャツの裾が出ていたし、ちょっと言い訳できない所に真新しい歯形があるし。豊前も豊前でいつの間にかシャツも前が開いており、歯を立てられたであろう痕跡があった。
二振りとも完全に無意識だった。頭が冷えると一気に羞恥が襲ってくる。自分達はこんな所で一体何をしていたのか。やらかしてしまったと、お互いの顔が見れなかった。

……すまん。どうにかしてた」
「僕もどうにかしてたから気にしないで……

地面に落ちていた上着を拾い、ぱたぱたと砂を払う松井。おかしな所は無いはずだ。たぶん、大丈夫。この辺りを散策していましたと言わんばかりの素知らぬ顔で二振りは元の場所に戻った。

(大丈夫、ばれてない。大丈夫……

来た時と同じ場所に転送装置を出すことは出来ず、少し離れた座標に転送装置を出現させることになったらしい。そこまでぞろぞろと歩いて行くことになった。隣にはただでさえ偵察の得意な脇差がいる。最後尾を歩く松井は内心冷や汗ものだ。何も悪い事はしていないのだが、何となく後ろめたい。

……ねぇ」

青江が松井の外套を軽く引いた。青江の金色の左目は細められ、口元がくっきりと弧を描いている。

「襟締は?」
「!」

咄嗟にシャツの首元に触れる松井。きっちりとボタンは一番上まで掛けられているが、リボンタイが無かった。一体どこに行ったのか。記憶をたぐり寄せる。――豊前が解いて、そのまま自分のジャケットのポケットに捩じ込んでいた。

(豊前~~~~!!!)

帰ったら一発くらす。しばらくは畑当番も馬当番も全部押しつけてやる。馬当番は好きだから文句ないよね。松井は豊前の背中を思いっきり睨み付けた。穴があったら入りたい。埋まりたい。青江には二振りの関係を知られているが、それとこれとは別問題だ。

「もしかして言わない方がよかったのかな……?」

羞恥やら気まずさやらで赤くなったり青くなったり忙しい松井を宥める青江。他にも色々と思うところはあるのだが、これ以上何か言うのも酷だと青江はいつもの軽口を封印した。


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堪えきれずに突入しちゃうルートも考えたけど今回は自制。
そっちはいつか機会があれば。


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