ナガレ
2020-11-23 11:29:21
3047文字
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現パロぶぜまつ(社会人ver)その3

ルームシェアという名の同棲ぶぜまつで、やっぱり松井が社畜予備軍。甘えたといい風呂の日の話。徹頭徹尾、いちゃいちゃしてるだけ。

霜月の終わり、急に松井の仕事が忙しくなった。ちょっとこれ無理だよね何で誰も断らなかったのお得意さんだから仕方ないけどという期日の案件が入ったらしい。松井が繁忙になると豊前はいつもにも増して世話焼きになる。松井に三食きっちり食べさせ、睡眠時間も可能な限り確保。普段は分担制の家事もできる限り引き受けていた。
忘れもしない松井が社会人一年目の冬。久しぶりに会う約束をしていたのに連絡が取れず、心配になって当時松井が住んでいた部屋まで様子を見に行った。貰っていた合鍵で豊前が中に入ると、松井が熱を出して寝こんでいた。肝が冷えるというのは正にこの事だ。
豊前は二人で暮らせる物件を探し、松井にルームシェアを持ちかけた。もう少しお金が貯まったらまずは揃いの指輪を買って一緒に暮らしたいとプロポーズまがいの事を……と、豊前にしてはロマンチックな計画を密かに立てていたのだが、それどころではなくなった。
今思えば、「二人で住める部屋借りた!引っ越しの日程決めっぞ!」とかなり強引なルームシェアの提案だった。どうせいつかは一緒に暮らす予定のだから、それが早まっただけといえば早まっただけなのだが。

「納品……締め切り……あの営業、今度顔見たらしめてやる……

軽めの夕飯を終えた松井がダイニングテーブルに突っ伏してぼやいている。豊前が遅番の日は先に夕飯を終えている松井だが、今日は残業で二人とも同じぐらいの時間に帰宅した。

「お疲れ。そろそろ風呂入って寝よーぜ」

洗い物を終えた豊前がおいでと言って松井に向かって腕を差し出すと、よろよろと立ち上がった松井がぽすんと豊前の腕の中に収まった。そのまま豊前は松井を抱き上げた。成人男性にしては相変わらず軽い松井。豊前はもっと食べさせるべきかもしれないと思った。

「はー……寝たら朝だよね。朝なんて来なければばいいのに……
「そーだ。今度の土日、休みになった」
「本当!?」

死にかけていた一気に松井のテンションが浮上した。松井は分かりにくくいように見えて、分かりやすい。でも根っこのところは隠そうとするから厄介だ。分かりやすさと分かりにくさが同居している松井とはたまにすれ違う時もある。が、それを解いていくのが自分の仕事だと豊前は思っている。(すれ違いからの大騒動に巻き込んだ悪友には今でも事あるごとにネタにされている。本当に申し訳ないと思っているが、そろそろやめてもらいたい。その度に松井が臍を曲げるので。)

「本当。平日休まなきゃいけなくなった奴がいて、そいつと交代した」
「折角だしどこか行く?」
「家でのんびりする。出掛けても外で飯食うぐらい。松井もそっちの方がいいだろ?」
……そうだね。僕もその方が助かる」
「思いっきし甘やかしてやるから、覚悟しとけよ」
「出た。豊前の僕をだめにする甘やかしコース」

ケラケラと笑う松井が可愛い。このまま二人でぐだぐだとしていたかった豊前だが、時計を見てハッとした。そろそろ日付が変わる。豊前は松井を抱き上げたまま風呂場に連行して押し込んだ。


*****


そんな会話から数日。土日休みの松井とシフト勤務の豊前、二人の休みが重なる事は少ない。残業を終えて帰ってきた松井は目に見えて浮かれていた。いつもは死にそうな顔で帰ってくるのに、今日は本当に残業をしてきたのか疑わしくなるくらいに元気だ。

「ご機嫌だな」
「うん。今から甘やかしてくれるんでしょ?」
「そーだったな。何したい?」

松井とこういう関係になってからそれなりの年数が経つが、豊前はずっと松井に惚れっぱなしだ。ひと頃に比べれば落ち着いたとは思うが、まだまだ愛し足りないと思っている。一生かけても満足できるか怪しいぐらいだ。

「一緒にお風呂入りたい。お湯張ってあるんでしょ?」
「もちろん。飯は?」
「そんなにお腹空いてないからまだいらない」

洗面台下の収納スペースを開けて「見たことない入浴剤があるんだけど」とはしゃいでいる松井はどう見ても浮かれている。豊前としてはこんな事でと思わなくもないが、松井が楽しそうなので良しとする。

「好きなの入れていーから、先に入ってろ」

松井に声を掛けると、豊前は着替えを取りに行った。



――膝頭が四つ、ちょんと乳白色の水面から出ている。できるなら足を伸ばしたいが、この浴槽の広さでは仕方ない。それでも豊前を背もたれにした松井はご満悦だ。ふふふーんと最近ラジオや有線でよく流れている曲をハミングしている。毎朝見ているニュースの天気予報内でも流れているから覚えたのだろう。
視線を落とせば、濡れて首筋に貼りついた髪。不意にいつだかの夜を思い出してしまい、豊前は平常心平常心と心の中で唱えた。だが、思わず腕に力が入ってしまった。

「こら、豊前」

松井が腹に回された豊前の腕を咎める。ゆっくり長風呂派の松井は至福のバスタイムを邪魔される事を嫌がる。だから豊前もおとなしくしているのだが……

「そういうことは、後でね」

不埒な動きを見せた豊前の手を捕らえると、松井は手のひら同士を合わせてみた。その行動に深い意味は無くて、ただ何となくだ。身長はそんなにも変わらないのに、手のひらは豊前の方が少し大きく、指の長さは松井の方が少し長かった。
松井が「これが生命線で、こっちが感情線。どちらもくっきり出てるねー」などと勝手に手相占いもどきをしていると、豊前にぎゅっと手を握られた。彼らしかぬ行動に松井は少し驚いた。――これはもしかして。

「豊前も寂しかった?」
「まーな。でも色々言いつつ真面目に仕事する松井が好きだし無理させたくねーし、落ち着くまで待つ気だった」
「でも待てなくなったんだ」

悪いかと言いたげな気配を察知。松井は豊前に気づかれないようにくすりと笑った。豊前はあまり長風呂をしない。甘やかすと言った手前おとなしく松井に付き合っていたが、そろそろ飽きてきたのだろう。

「先に出てもいいよ。僕はもう少し温まっていく」
……嫌っちゃ、って言ったら?」

豊前に背後から抱き締められる。豊前は思いっきし甘やかすと言っていたが、これでは一体どっちが甘えているのやら。普段はかっこよくて何でもできる最高の恋人だけれど、今の豊前はちょっと可愛いと思う松井。口にしたら仕返しに何をされるか分からないので、面と向かっては言わないけれど。

「我慢できなくなるからだめ。絶対のぼせる」
「のぼせなきゃいーだろ」

首元に顔を埋められ、豊前の濡れた前髪が肌に貼りついた。松井は思った。学生時代、リーダーだからと事あるごとに豊前を担ぎ上げていたクラスメイトにこの姿を見せたらどうなるのだろうかと。目の前に百億円積まれたって絶対に見せてやらないが。
そのままぐりぐりと擦りつけてくる豊前に、僕を甘やかしてくれるんじゃなかったのかと松井は尋ねた。すると、どこか歯切れの悪いばつの悪そうな声が返ってきた。

「まぁ、そういうのは後で、だな」

その言葉に仕方ないなぁと松井が笑った。振り返りって豊前の首に両腕を回し、体の向きを反転させるとパシャリと飛沫が飛んで水面が波打つ。松井だってやぶさかではないのだ。

甘やかしてもらうのは明日からにしよう。


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今日も幸せハッピーライフぶぜまつ。お幸せに!
いつか実家で農業やってる学生時代からの悪友Kさんも登場させたい。


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