桑名江は豊前江を探していた。畑仕事も一段落し、少し休憩がてら昼寝でもしようかと思った桑名は豊前を探していた。昼寝をするなら豊前の膝が最高だ。
今日は非番だと言っていたので、本丸のどこかにいるはずだ。厩にはいなかった。手合わせ用の道場にも、談話室にもいなかった。通りすがりの何振りかにも聞いてみたが、豊前は見ていないという。
自室にいるのだろうか。桑名は障子が開いたままの豊前の部屋を覗いてみた。しかしそこにはいなかった。
「篭手切もいないし、松井のところかなぁ」
篭手切江は遠征に出ており不在。他に暇な豊前の行きそうな所というと、同じ刀派の松井江の所だろうか。桑名は二つ隣の松井の部屋を訪ねてみることにした。
「松井-、豊前そこにいる?」
親しき仲にも礼儀あり。桑名は部屋の外から声を掛けた後に松井の部屋の障子を開けた。松井の返事は待たない。声は掛けたのだから最低限の義理は果たしている。松井も桑名の扱いは雑なので、お互い様だ。
「あぁ、桑名か」
「桑名だよ。豊前は?」
「いるにはいるけど……」
ここに、と言われて桑名は松井を見下ろした。体を少し丸めて豊前が寝ていた。豊前が昼間に寝ている事自体は珍しくも何ともない。夜明け前から遠駆けした日は、よく気持ち良さそうに昼寝をしている。
が、今日は枕にしているものが珍しすぎた。豊前の頭は正座を少し崩した姿勢の松井の膝に乗っているのだ。俗に言う膝枕というやつだ。
豊前が誰か(と言っても、篭手切か桑名ぐらいだが)に膝を貸しているのはよく見る光景だが、豊前が借りているのは初めて見る。このレアな光景を篭手切にも見せてやりたかった。
「ふらっとやって来たと思ったら寝てしまって。最近は夜戦も多かったし、疲れていたのかな」
どうやら豊前は松井の膝枕ですやすやと寝ているらしい。申し訳程度に松井のジャージの上衣が掛けられていた。
「ここまでぐっすり眠られると、起こすのも何だかしのびなくてね」
そろそろ足が痺れてきたという松井に、桑名はふーんそうなんだぁと適当に返した。松井は豊前がぐっすり眠っていると言うが、これは……。松井よりも豊前との付き合いが長い桑名には分かってしまった。
松井も松井で足が痺れてもじっとしている辺り、この状況は満更でもないのだろう。――うん。この空間に長居は無用だ。桑名はあっさりと探し物を諦めた。
「豊前に膝貸してもらおうと思ったけど、寝てるならしょうがない」
お邪魔しましたーと、回れ右をして桑名は松井の部屋を立ち去った。去り際に「それ、起きてるよぉ」と言い残して。後ろ手でしめた障子の向こうでは、松井が目を白黒させているに違いない。松井には悪いが、桑名は豊前の味方なのだ。
「ぶ、ぜん……?」
松井が恐る恐る声を掛けると、膝の上で桑名曰く「それ」が身じろぎした。整った顔立ちに見惚れていた事も。豊前はかっこいいなぁと心の声を漏らしてしまった事も、思わず頬をつついてしまった事も、少しぐらいならいいよねと髪を触ってみた事も、全てバレていたというのか。
寝ているから大丈夫だとやってみた事が豊前に知られてしまった。いや、待てよ。これは桑名のたちの悪い冗談かもしれない。きっとそうだ。そうであってほしい。顔面蒼白の松井は桑名の戯言に一縷の望みを託した。しかし現実は無情である。
「バレてたか」
ぱちりと効果音つきで目を開けた豊前の一言に松井は一気に血の気が引き、声にならない悲鳴を上げた。声にならなかっただけで松井的には絶叫だ。パニック状態の松井を尻目に豊前が起き上がった。
「ジャージ、あんがとな」
起き上がった拍子に掛けられてたジャージが落ちた。豊前としてはもう少し堪能していたかったが、狸寝入りがバレてしまったので撤退だ。ここ最近夜戦が多く、昼間が眠たいのは事実なので部屋で寝直すことにしよう。
豊前があくびをしながらよいしょと立ち上がろうとすると、くいと内番着の裾が引っ張られた。
「松井?」
「えっと、その、豊前、まだ眠そうだし……」
使っていいよ。
――数刻後。膝の上で完全に寝入ってしまった存在を落とすわけにもいかず、足が痺れて動けないと涙目の松井江がいたとかいなかったとか。
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松井は豊前の膝を借りない代わりに貸していたら全私がしあわせ。
豊前と桑名は兄弟刀というよりも朋友や悪友が似合う。
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