ナガレ
2020-09-23 22:10:22
1330文字
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豊前と松井と血の話、その一(ぶぜまつ)

松井の綺麗なお顔にできた傷を舐める豊前が書きたかった。加筆修正というか改訂したものを、2021年2月HARUコミ合わせで出した小説本に入れました。

――歴史改変を目論む時代遡行軍が出現、至急対処されたし。

時の政府からの一報を受けた審神者は、即座に部隊を編成して現地に送り込んだ。歴史のターニングポイントはいつまで経ってもターニングポイントだ。この景色も飽きるほど見ている。

敵の布陣を偵察し、自軍をより有利な布陣に展開する。先手必勝、相手と目が合った瞬間が戦の始まりだ。軽騎兵を引き連れ戦場を疾風怒濤の勢いで駆け回るのが彼、豊前江のやり方だった。
予想以上に敵の数が多く気づけば斬って斬って斬りまくる乱戦になったが、練度の差で押し切り軽傷程度で済んだ。すぐに手入れを受けなくても問題はないだろう。何ならこのまま他の戦場に出てもいい。
どうやら増援も無さそうだ。血振りの所作で刀についた敵の血――穢れを落とすと、豊前はようやく刀を鞘に収めた。自分の肉体よりも刀の手入れがしたいぐらいだ。

……豊前、こっちも終わったよ」

少し離れた所で同じように刀を納めたのは同じ刀派の松井江だ。足下には哀れな敵の成れの果てがいくつも転がっている。松井の戦い方は、一言で言えば「凄惨」だ。血を流し、血に塗れるその戦いぶりは、大地を赤く染めるといっても過言では無い。
だが、豊前には松井の戦姿が勇ましくもあり、痛ましくも見えた。

「多くの血が流れた」

そう言って戦装束の袖で顔を拭う松井。白磁の肌を点々と染める赤はどうやら返り血のようだ。豊前としてはここまで血に塗れなくてもいいのではないかと思うが、これが松井のあり方なのだから仕方ない。

「豊前に怪我は?」
「掠り傷が少し。ま、でーじょうぶだよ」
「それならいいんだ。味方の血が流れるのは見たくないから」

味方の中に松井自身が含まれていない事は豊前も知っている。仲間の血が流れるのは良しとしないのに、自らの血が流れるのはいいのだ。

……分かっちゃいるんだ」
「豊前?」

塵となり風の中に消えていく敵の骸。砂塵のようなそれを遮りながら、豊前は松井に手を伸ばした。顔ばせに、赤い筋が一本走っている。敵の刃が掠ったのだろうか。

「分かっちゃいるけど、お前が血を流すのは見たくねーな」

伸ばした手で松井を引き寄せると、豊前はちろりと赤い筋を舌で辿った。滲み出た血の味は、どこか懐かしい鉄の味がした。

「ぎゃっ」

生温い感触に松井は思わず飛び退いた。心臓が飛び出そうだという喩えのはまさにこの事だ。ものすごく顔の血行がよくなっているのが分かる。今にも茹だってしまいそうだ。

「悲鳴あげるなら、もうちっと可愛らしいので頼むっちゃ」
「誰のせいだと……!」
「俺か?」

まったく悪びれる様子の無い豊前に松井は二の句が継げない。この馬鹿!あんぽんたん!と言ってやりたいのに、言葉が出なくて口をはくはくと開閉させる事しかできなかった。

「さっさと合流すっぞ。置き去りにされたら帰れねぇ」

ほら、と差し出された豊前の左手。ここにいるのは二人だけ。骸はすべて散り、ほんの少し前に戦闘があったとは思えないぐらいの静けさだ。「手」と促され、松井は不承不承といった体でそっと右手を重ねた。


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まつに対して何やら思う所のあるぶぜも好き。


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