こびゅ
2023-11-24 22:58:20
6560文字
Public JB
 

手繰る彼の香

あなたは6時間以内に12RTされたら、どちらかが調香師の設定で同居して暮らし始めたこびゅのししさめの、漫画または小説を書きます。
#shindanmaker
https://shindanmaker.com/293935

※現パロ?で、原作より普通気味でフランクなふたり。まだ付き合ってない。
※🦁が女性と関係を持っている描写有り。

 オレが村雨と出会ったのは、大学三年の時に参加したコンパでのことだ。
 学部も、そもそも同じ大学の集まりかも良くわからない中、奥のテーブルに混じっていた黒髪に眼鏡を掛けた細身の男は、酷く陰鬱で不機嫌そうに見えた。
 何をやらされているのか、言われるがままに横に座った人間の匂いを嗅いでは何事かを答えていて、その度に周囲から驚きの声が上がる。
「あれ、誰。何やってんだ?」
 横に座った名前も知らない女に訊ねれば、OBの誰かが連れてきた院生で、他人の香りを嗅げば使っているボディソープやシャンプーやらの銘柄を当てられるらしいと教えてくれた。
 随分と鼻の良い人間も居たものだ。だがどう見ても本人が望んでひけらかしている様子ではなく、曲芸をする犬宜しく使われているんだな、と気の毒に思う。
 勿論、思っただけだ。嫌なら嫌だと言えば良い話で、それが出来ず弄ばれるなら本人に問題がある。
 世の中そういうもんだと考えながら、この後抜け出さないかと誘ってくる女を適当にあしらっていた。
 暫くそうして時間を過ごしたが、幹事の顔を立てていただけでなんら楽しくはない。
 美味くもない安い酒と、べったりとした化粧の匂いに辟易し、周囲に一声を掛けて席を立つ。
 そろそろ消えても良いかと思いながら店の外にあるトイレへと向かえば、その途中の通路で壁に寄り掛かっている男に気が付いた。
 ――あいつだ。
 照明と照明の間、薄暗がりの中に佇む奴は、まるで悪魔か亡霊のようだ。
 しかし立ち止まる訳にもいかず、そのまま素通りして用を足す。声を掛けるにしろ、掛けないにしろ、出てから決めればいい。
 果たして、居なければ良いと薄っすらと抱いていた願いも虚しく、男は変わらずそこにあった。
……オイ、大丈夫か? 悪酔いでもしたのかよ」
 仕方なく近寄り、顔を覗き込んで声を掛ける。
 無視を決め込んで立ち去っても良かったが、何故か妙に気になった。
「酒は飲んでいない」
 その雰囲気、立ち姿とは裏腹に、男の声がはっきりと耳に届く。いっそ場違いな程、良く通る声だった。
「なら」
――ただ」
「あ?」
「悪臭ばかり嗅がされて気分が悪い」
「あー……
 ご愁傷さま、と口の中で呟いて肩を竦める。
 安酒に似合いもしないフレグランス、化粧に制汗剤の類。特に鼻が利くわけでもないオレでも辟易したのだ、芸に出来る程過敏な男が具合を悪くしても仕方がないだろう。
「もう帰れば、お前。つうかオレも出るつもりだし、タクシー拾おうぜ」
……何故?」
「別に、意味なんかねぇよ。気紛れってやつ。つうかそんな風になんなら、ああいう馬鹿の言い成りになるんじゃねぇって」
「どうでも良い相手なら、とっくに帰っている。あなたの言う所の馬鹿は兄の同期でな、無碍に出来なかった」
「あっそ。まぁ良いや、行くぞ」
 形ばかり差し出した手を取られてしまい、仕方なく壁に寄りかかったままの薄い身体を引いた。
 途端、傾いだ身体が一瞬だけこちらに凭れ掛かり、そして直ぐに離れていく。黒髪が首筋を掠める、冷たい感触が妙に印象的に思えた。
「本当に大丈夫かよ」
「問題ない。少し足が縺れただけだ」
 言って手を離した男の立ち姿はしゃんとしていて、足取りも存外にしっかりとしている。
 ならば平気かと、ひとりで店内に戻り二人で抜ける旨を幹事に伝え、金を預けて店を出た。
 丁度良く通り掛かったタクシーを停めて乗り込み、行き先を告げる。こいつはどうやら、オレより店からは近い場所に住んでいるらしい。
 車中でも特に会話はなく、目的地に着いて精算した男はさっさと車を降りようとして、ふと振り返った。
「助かった、感謝する。礼はいずれ」
「おう、じゃあな」
 これがオレと村雨礼二の出会い、その一部始終だ。
 実の所、この時オレ達は互いに名乗ってすらいなかった。

 /

 次に村雨の顔を見たのは数年後。
 とある会社の営業職に就いていたオレは、某社の新商品取り扱いの件で先方に出向いていた。
 薬品会社を本社に持ち、新しいルームフレグランスのシリーズを出すのだという。
 今回は開発の人間も同席する、という話で打ち合わせに向かったのだが、紹介されたその開発の人間こそが村雨だった。
 驚いたのはその髪にファンキーなインナーカラーが入っていたことで、大学時代とは大分印象が違う。 
 向こうがこちらを覚えているかどうか自信はなかったが、視線が合った瞬間に驚いていたので、多分覚えていたのだと思う。
 名刺を交換し、そこでやっと村雨礼二という名前を知った。ついでに、三歳年上であることも。
 仕事の話しは順調に進み、以降は互いに営業同士でのやり取りがメインになる。
 何もしなければ村雨との縁も切れるところだったが、打ち合わせが終わって会社を出た所で社用のスマホが鳴った。
「はい」
『獅子神か』
「そうだけどよ。取引相手の電話に掛けて、初っ端呼び捨てはねぇんじゃねーの」
『あなたもそのタメ口はどうなんだ』
 互いに笑い混じりで言い合い、まるで久し振りにダチと話した時のような空気を感じるのが不思議だ。
『あの時の礼がまだだっただろう。今夜付き合え』
「良いけど、お前マイペースだって言われねぇ?」
 そんなやり取りから、村雨との個人的な付き合いが始まった。
 頻度は一〜ニヶ月に一度位、暇があれば飯を食いに行く程度の間柄だ。近況に仕事の関連、最近読んだ本や映画の話をするだけの関係。
 まぁつまりは、数年後しにダチになった。
 転機が訪れたのは、オレが遭遇したトラブルからだ。
 とある週末にマンションへ帰ったら、上階からの漏水で部屋が水浸しになっており、ほとんどの家電や押し入れの中身が駄目になっていた。
 差し当たり数日分の着替え洗い直すべくコインランドリーに車を走らせ、回している間に近場のホテルやネカフェを探す。後が面倒なので、女の所は最後の手段にしたい。
 保障は何処までされるのか、されるにしてもいつになるのか分からない状態での出費はなるべく避けたがったが、仕方がなかった。
 店の外で缶コーヒーを片手に空を見上げても、星のひとつも見えやしない。
 虚しさで涙も出ないと思っていると、不意に声が掛かった。
「獅子神?」
……よお」
 声の方へ振り向けば、コンビニのビニール袋を片手に村雨が居て、随分とラフな服装で立っている。
「何だ、テメーの家この近所?」
「ああ。すぐそこだが……どうした、こんな時間に」
「いやーなんつうかなー」
 笑うしかない状況を簡単に説明してやれば、村雨は少し考えた後に顔を上げて言った。
「ひとまず、私の家に来るか?」
「え、いや。そりゃありがてぇけど」
 意外なような、そうでもないような提案に聞き返せば、構わないから言っていると続けられる。
 それはそうだと思ったので、車はパーキングに追いたまま、オレは洗い上がった着替えを持って村雨の家に向かった。
 驚いたことに、村雨の住んでいるマンションは一人暮らしにしては随分と広く、間取りは明らかに単身者用ではない。
「お前、誰かと同棲でもしてんの?」
「兄が結婚する前は、一緒に住んでいたんだ。元々父の持ち物だったから、そのまま住んでいる」
「なるほどな」
 随分と羨ましい話だった。
 今晩の宿は確保出来た形だが、根本的には何も解決していない。
 慣れない家のソファで借りてきた猫宜しく座っていると、コンビニの袋からチューハイを取り出した村雨が差し出してきた。
「サンキュ」
「余り気を落とすな。管理人がしっかりしていれば、早々に対応してくれるだろう」
「ま、そうなんだけどよ」
 ごそっと出てきたスナック類を摘みつつ、有り難くプルタブを開ける。
 同じように開けた村雨は、わざわざガラスのグラスにチューハイを注いでいた。
「それ、後で洗うの面倒じゃねぇ?」
「缶の匂いが気になるんだ」
「難儀だな、相変わらず」
 場所が出先だろうが、村雨の家だろうがオレ達の会話は変わらない。
 テンション高くはしゃぐでなもく、どちらかと言えば淡々と言葉を交わしていく。
……あなたの」
「ん?」
 互いに二本空にした所で、酔いが回りぼんやりとした様子になった村雨が、どこか迷うような素振りを見せながら口を開いた。
「こちらが提示する条件を飲むのであれば、暫く空いた部屋を使って構わないが、どうする?」
「へ?」
「さっきも言ったが、ここは父の持ち物で家賃は掛かっていない。折半するにしても、水道光熱費くらいか」
「いや、そりゃあ有り難い話だけどよ。条件ってなんだ」
 パーキングや職場への確認は必要だろうが、当座としては願ったりの申し出だ。
 直ぐ様受けたくなる気持ちを制して、条件とやらを聞き返す。
「こちらが要求した時に……あなたの、匂いを嗅がせて欲しい」
……なんて?」
 アルコールが入った頭だからか、言われた内容が全く入って来なかった。
 オレのリアクションが想定済みだったのか、少しばかりヤケになったらしい村雨が、矢継ぎ早に言い立てる。
「初めて会った時、あなたに身体を支えられた際に感じた匂いが忘れられない。わたしにとって、とても良いものだった。家や職場で調香をしていると、どうしても鼻が利き辛くなってしまうからな。通常はコーヒー豆や自分の肌の匂いでリフレッシュするのだが、それが好みの匂いならばそちらの方が良いに決まっている」
「お、おう。えーっとな、それは別に……いや、いっこだけ確認して良いか?」
「何だ」
「お前ってソッチ系?」
「同性愛者かという意味での質問であれば否だ。どちらかといえば、男女問わずそういうものに全く興味が無い性質、と言った方が近いかもしれないが」
「あー、なんか。確かにそれっぽいなお前……
 男から感じるイメージと、実際問題としてこれまでの付き合いでそういう空気は感じたことすらない事実を踏まえ、オレはその申し出を受けることにした。
 元々住んでいた部屋の復旧までは、水道管の補修工事も含めてそれなりの日数が必要だと判明し、ひとまずそれがどうにかなるまでという約束で居候が確定する。
 最初の半月程はバタついたが、以降が互いに必要以上に干渉しないのもあって、想像以上に快適な生活を送っていた。
 懸念であった条件も、数日に一度ものの十数秒肩口に寄り添われる、くらいのもので、呆気なさ過ぎてオレの方が驚いたくらいだ。
 村雨に言わせればそれで充分、とのことだったので、必要以上に追求するのは止めておいた。
 しかし――
……数日、私に近寄るな」
「あ、わかった。……悪い」
「あなたが謝ることではない。私にそれを制限する権利はないしな」
 久し振りに人肌が恋しくなって、女の元で過ごしてから戻った時のリアクションがこれだ。
 一晩を女の部屋で過ごしたといっても、村雨の過敏さを知っていたから朝起きて入念にシャワーを浴びて戻ってきた。
 それでもなお嗅ぎ付けて、不快さに顔を顰めた男の顔に思ったのは何ともいえない申し訳なさだ。
 こんなんでも分かっちまうのかこいつ、という、この人間がごった返す世界でどうやって平静を保って生きているのか不思議なくらいの過敏さに、オレは少しだけ途方に暮れる。
 もしかして、そんな中でオレの匂いを求めるっていうのは、どういう理屈かは置いておいて何かとんでもないことなんじゃねぇのか。
 別に村雨に対してここまで慮る理由があるのか、と問われれば、オレだって良く分かっていないのだと思う。
 しかし条件付きとはいえ住居を提供して貰っている手前、同じことを繰り返すのはどうにも不義理に感じてしまった。なので。
 数日後。
 久し振りに村雨とまともに顔を合わせたオレは、ある提案をした。
「村雨、ちょっと良いか」
「何だ」
「オレさ、少なくともここに住んでる間は、女んとこ行くの止めるわ。彼女ってワケでもねーし」
……いや、それは。先日も言ったが、そこまで拘束する権利は私には」
「なんつうかオレが、お前にああいう顔させんのが嫌なんだよ。でも、オレもちょっとさ、条件っていうか」
「はあ。なんだ」
「特定の恋人は今んとこ作るつもりはねぇんだけど、なんか人肌恋しくて寝る時に誰かに居て欲しい時があんだよな」
「それで?」
「時々で良いからさ、お前一緒に寝てくれねぇ? オレの匂いが好きなら、お前にとっても悪い条件じゃないと思うけど」
「ひとつだけ確認して良いか」
「良いけど。今まで26年生きてて、男相手にその気になったことはねぇよ」
……なるほど」
 その日試しにと同衾してから、オレ達の間に習慣が増えた。
 細身で若干骨っぽい身体つきをしている癖に、村雨の抱き心地は悪くない。
 一方でこいつも、オレと同じベッドで眠った翌朝にスッキリとした顔をしていて、気に入ったのが一目瞭然だった。
 普通に考えればダチ同士でこの距離感はどうなんだ、と思わなくもないが、オレ達の間では何の違和感もないのだからここはすっかりと割り切っている。
 問題があるとすれば、オレのナニが時折誤作動を起こしてしまうことで、その度に村雨にベッドから追い出されることくらいだ。
「獅子神。あなたは男相手にその気になったことはない、と言っていた筈だが」
「嘘は言ってねぇんだけどな……。適当に抜いてんのに、なんでだ」
「知らん」
 言葉は拒絶だが、その顔は当惑に満ちている。それはそうだろう。
 オレだって自分にちょっと自信が無くなってきた。
 しかし、でも、なぁ?
 オレの匂いを好むという村雨自身は、驚くほどに体臭が薄い。それこそこうして抱き込んで眠るでもなければ、分からない程度には薄い。
 それを嗅いでいるとどうしても、なんだか気分がモヤついてしまうのだ。
……もういっそ、試してみるか」
 何度目かの誤作動に、業を煮やしたのかふと村雨がそんなことを言ってきた。
 いや、そんな。
「お前さ、それ試してイケたらどーすんだよ」
「一石二鳥が三鳥になるな」
「オイ」
「違うのか?」
……違わねぇんだけど。ダチとしてそれは如何なモンかと」
「何を勘違いをしているのか知らんが、まぐわいまでいかずとも処理を手伝う、くらいで構わないのではないか」
「ああ、そういう……いや、だから。それで全然イケちまったらどうすんだって話で」
……無いとは思うが。そこまでいったら、逆に何も問題はないだろう」
「あるだろうよ」
「例えば?」
 問われるも、しかし咄嗟に思い浮かばない。
 抱えたままの村雨の体温は、当然ながら寝間着越しだ。
 これに、直接、触れる……
「例えば?」
 繰り返しの問いに、もう考えるのも面倒になったオレは、ねぇな、とだけ答えていた。
「触って良い?」
「待て。接触が必要なのはあなたの方――
 どこまでというラインを決めていないのを良いことに、裾から手を突っ込んだ。
「獅子神!」
「試すんだろ? 触るだけにするから、身体貸して」
 我ながら最低なことを言いつつ、まずは骨の浮いた上半身に触れていく。
 奇妙な興奮と自身の反応への困惑は横に置いて、男の身体を堪能していった。
 翌朝。
 憮然としながらもまぁ悪くはなかった、と宣う村雨にしてやったりと思いながら開き直って笑ってやる。
「オレも悪くなかったし、必要な時適当にってことで」
「ああ。まあ良いだろう」
 二人の間にまたひとつ習慣が増え、オレとしては引っ越さなくて良い理由を探す必要が出来た。
 こいつがどう思っているのか、という問題はあるものの、ここまで来てダチだと言い張るのはもう無理だ。少なくとも、オレにとっては。
 だから今後の課題は、どうやって村雨を落とすかという点にあって。
「村雨」
「何だ、獅子神」
「これからもヨロシクな」
「? ああ」
 眉を顰め、首を傾げて頷く姿に狙いを定めながら。
 オレは次にいつ誘いを掛けようかと、そればかりを考えていた。