魍魅 魎
2015-08-22 01:47:34
1020文字
Public 創作
 

【創作】アスになった日

相方と出会う前。アル・シャインの過去にかかわる話
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路地裏の一角にある診療所。
表の医者に掛かれない人間が訪れる受け皿のような場所だ。
ドアには取り込み中の札が下がっている。

「お前は覚えていないだろうが、
 十年前の今日、ここへ運び込まれて来たんだぞ。」


その診察室には老医師と向かい合う様に座るアル・シャインがいた。
彼らの目の前の机にはグラスとアルが持参した酒瓶が置かれており、
診察中というわけではない様だった。

「あの時はまさか冷酷非道の暴れ者が、
 裏稼業の男には特に警戒している街娼達に運ばれてくるとは思わなかったぞ。」


老医師が赤らんだ顔で話しているが、
向かい合うアルはグラスを手で揺らすだけで言葉を発しない。

「おい、聞いてるのか?」
覚えては、いる。」

不機嫌そうに言い、アルがグラスに入った液体を飲み干した。
目は微かに老医師を睨んでいるようにも見える。

「すまんすまん、いい思い出じゃあないからな。」

詫びながらも老医師の笑みは消えず、空になったアルのグラスに酒を注ぐ。

「そういえば、あれからアスと名乗って仕事してるんだってな。
 なんでまた昔の義賊の名前なんて
「名を引き継いだだけだ。」

グラスに口を付けようとした老医師の動きが止まる。

「ーーまさか殺したのか?」

グラスを机に置き、改まったように老医師がアルに向き直る。

「私をこうしたのはあいつだ。」
「あのアスが?」
「病んでいた様だが、義賊だったころの正気のあいつを私は知らないから、
 あれが正気か狂気の沙汰かなど分からん。」

アルは老医師と目を合わせない。

悪魔に憑かれて姿をくらましたと噂で聞いたが、病を患っていたとは。
 そんな目にあって、何故通り名を引き継いだ?」
気まぐれだ。意思も仕事も引継ぐ気は無い。」
「ほう。」

『継ぐ気がない』とアルが言葉にするという事は、
『継いで欲しい』と言われたのだろう。
苦虫を噛み潰したように顔をしかめて、アルが深いため息をつく。

「私はただ」
「日向で寝れればいいって?」
「ああ。もう疲れたからな。」
「お前の歳で疲れたとか言うな、馬鹿もんが。」
「五月蝿い。」

笑って老医師が酒を飲みほし、アルが空いた老医師のグラスに酒を注ぐ。

「俺の所には来ないに越したことはないが、
 偶には顔をみせろ。」
「考えておく」

自分のグラスの酒を飲み干すと、アルは診療所を後にした。