ゆい
2023-12-19 14:12:00
628文字
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春が来て僕らは

【宗みか】短編。電話と春

2022/08/27
【宗みか】春が来て僕らは

その日は一日中、携帯電話を手放すことが出来なかった。
俗世と僕を強制的に繋ぐ文明の利器など創作活動の妨げとなるだけだから、普段は努めて持ち歩かないようにしている。だけど、今日だけは別だった。朝、目が覚めた瞬間からポケットに忍ばせた硬さにもう何度触れたか分からない。たまに下らない理由で震える度に、何もかもを放り出して覚束なくとも何とか画面を開いた。そんな僕の有り様と操作の拙さを異国の友は笑ったけれど、そんなことはどうでも良かった。一番最初に知らせるから。昨日電話した時、影片は確かにそう言った。彼が僕に嘘を吐くことは有り得ないから、きっと本当に一番をくれるのだろう。ならば僕だって万全を期して待とう。彼の声を一秒でも早く受け止めるためならば、嫌いな文明だって使いこなしてみせる。
また一つ、ポケットの奥が小さく震えている。やっと慣れてきた仕草で開いた画面には、待ちくたびれた四文字が並んでいる。通話ボタンを押す指先は少しだけ冷えていた。浅くなる呼吸を整えて、なるべく普段通りの声を意識しながら海を渡って名前を呼ぶ。回路の向こうには弾むような気配。大きく空気が揺れる予感。

「受かった!お師さん受かったで!来年からおれもそっち行けるわ!」

泣いているような笑っているような影片の声が鼓膜に届いては弾けていく。全く、どこに居ても君はやっぱり忙しない。来年からの賑やかさを思って、僕も漸く少し笑った。