ゆい
2023-12-19 14:10:29
444文字
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優しい腐り方

【宗みか】短編。カウントダウン


真っ黒なペンで今日という日にさよならを告げる。
無粋な✕印がずらりと並んだカレンダーを前にすると、今日もおれは動けなくなる。お師さんが海の向こうへ行ってしまうまで、あと十日も残されていない。毎日、目覚める度に二人の残り時間を数えてぞっとする。この場所に一人残されるおれは、これから一体どうなるのだろう。まだ教えてもらいたい技がある。まだ見惚れていたい指がある。まだ繋がれて従っていたい糸がある。やっと二人きりで生きていく覚悟も準備も出来たのに。離れ離れでも笑って踊る為の強さが、まだおれには足りない。どんな絶望でも糧にして至上の高みへと咲き帰るだけの強さが。どれ程の汚濁を飲まされようと一度舞台へ上がれば誰よりも美しく己を演じきるだけの強さが。

「影片?」

キッチンの方からおれを呼ぶ声がする。反射的にぴんと伸びる背筋はもう生理的なものだ。この声があれば、おれは何度だって生まれ変われる。だけど、何時でも傍らにあった神様と別れてもおれの背筋はきちんと伸び続けられるのだろうか。