遠景に緑はほとんどなく、むき出しの大地の色がある。この辺りの山はもうほとんど禿山だ。豊かな緑は薪としてほとんど借り尽くされてしまった。昔は春先になれば野草を取ることもあったが、地表が雨に流されて、木どころか草花すらも残っていない。
人の営みが、木々の育つ速度に見合わないのだ。建築材や燃料、輸出入のための船。需要はいくらでもある。人々はもっともっと、薪を求めていた。
しかし手元にないものはないのである。
禿山の向こうから馬方が炭を積んでくる。木のある場所に移動しようとしても、工房や家は動かすことができないのである。だから木をより運びやすい炭の形にして運んでくるのだ。
炭を作っている人たちのところにも生活がある。だから都市で生産されたものを戻るときに運んでいく。馬方は一時期よりもずっと仕事が増えた。馬もまた、欲しいと言ったときにひょいと増えて、素人に簡単に扱える動物ではない。需要はますます上がり、弟子を取ることができるほどになった。
その日、日暮近くになっても馬方は周りに民家のない寂しい場所にいた。もう一つ前の集落で宿を取るのが、常の旅程だが、馬方は急いでいた。往復を重ねれば重ねるほど金になるからだ。
足を早めれば次の村に辿りつけるかもしれないが、長旅で馬は疲れていた。
暗くなっていく空を見て不安が募り、馬方は懐に入れていたお守りを握りしめる。道中これを持っていれば、神が印にして目をかけてくれると伝わっているらしい。古い里のものに渡してもらった守りだった。
そういえばあのあたりも随分と寂しくなった。
昔は豊かな里だったのだが。
そんなことを考えながら歩いていたときだった。後ろから、足音が近づいてくる。一体なんの音だったのか。
振り向いても見えない。
暗闇しかない。
月も星も夕暮れもない暗闇があるだけである。己の二つの目玉がなくなっていることに、馬方はすぐには気づかなかった。
「ようやく二人」
目玉をくり抜いた神は、指折り数える。里で祀られていた神は己の守る民を貧しくしたものを許してはいなかった。住処を荒らした人を、恨んでいた。
お守りを持っていれば、それが恨むべき人である。
街道に出る化け物の噂が出るのは、半月後更に多くの犠牲者が出てからのことである。
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