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望月 鏡翠
2023-12-16 20:11:24
959文字
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日課
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#1209 「豚」「王」「鐘楼」
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「豚」「王」「鐘楼」
絶対君主制が失われて久しい現代に置いて、王族というのはある種の裏切り者の烙印でしかない。全時代のまだ未熟な社会に置いて、人権を踏み躙る側に立っていたという恥ずべき証明である。
にも関わらず、彼は堂々といていた。生まれ持っての高貴さと愛されて育ったが故の自信と強さを持ち合わせていた。
囚われているのに、世話をしている側が圧倒されて引き込まれてしまうほどに、彼は魅力的な人間であり続けた。時代が悪かったのだろう。
人の上に立つのに、最良の資質を彼は備えていたのだ。
無条件に人に好かれ、どうにかしてやりたいと思うような人物だった。
しかしそれは、旧体制へ加担する行為とみなされて認められなかった。
だから元王族のその人は、成人を迎える前から幽閉されて、結局死ぬまで鐘楼にある牢獄から出てくることはなかった。
冬は寒いし、夏は暑かった。
それに何より、耳が割れそうなほどにうるさかった。最後の方はまともに聞こえておらず、読唇術でコミュニケーションをとっていたのではないかと言われている。
世話係や看守がこっそりと指す売れをして、彼の住環境を整えた。その間、外の世界ではさまざまなことがあった。
当然、過去の王族を担ぎ上げて、再び王族が民主を支配しようとする動きに、持っていこうとする連中もいた。
だが、本人が国王となるつもりがなく、人々が望んだのであればと己が投獄される運命を受け入れていた。
看守たちの気遣いにも感謝していた。
彼を牢屋に入れた人間が、豚に等しい扱いをしても、どれほど言葉で蔑んでも、印象操作をしようとも、その人柄を裏切るのは困難であったからだ。
だから今でも、看守の日記や数々の記録や証言の中にその男の記憶が残っている。
牢獄王と後の歴史にあだ名されることになる、王の名前である。
「最後は耳が聞こえなくなったせいで、まともに話すことが難しくなったと伝わっているんだ。だってほら、そっちの方が説得力があるし、悲劇的だろう」
明るい生死でそう語る男の顔は、美術館に飾ってある肖像画とそっくりだ。噂の通りなら牢獄の中で障害を過ごした男に、伴侶なんていなかったにも関わらず、だ。
その理由を、私たちは推測はできても、真相なんて知る由もなかった。
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