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望月 鏡翠
2023-12-10 21:21:14
933文字
Public
日課
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#1204 「牛蒡」「心臓」「美容室」
#毎日最低800文字のSSを書く
心臓に燃えるような人を灯していたい。だから赤がいい。
私は心臓の下りを全て省いて、赤がいいとだけ担当美容師さんに好みを伝えた。
初めて行く美容院で、オーダーをするときはいつも緊張する。もっというべきことがある気がするのに、最低限のことしか言わずにそれで大丈夫ですを繰り返して首を振る起き上がりこぼしみたいになってしまう。
隣に来た別のお客さんが世間話なんてして、コミュニケーションをとっているのを見るともっとああしたらよかったのかもしれないなんて、羨ましくなってしまう。
それでも必要なことは伝えられているわけだし、と自分を慰める。
髪の毛を染めている間は、寝ているか雑誌を読んでいればいいわけだから、楽だ。
そして、シャンプーをして乾かして、私の目の前には錆色になった髪の毛があった。
赤ではないかもしれない。燃える様なの部分を伝えなかったから、こんな風になったんだろうか。確かに赤にも色々ある。ピンク系とか紫掛かった赤だとか、暗めとか明るめとか。
きっと二百色以上細かいニュアンスがあるのだろう。
その中から、どうしてこの色になってしまったんだろう。
ブリーチが甘くて元の髪の色が残ってしまったのか。それともしばらくしたら、ノイズになっている色が消えて綺麗になるんだろうか。いや、そんなはずはない。派手髪の派手の成分は、だいたい染めたあとが最大値で後はどんどん色が抜けて落ち着いていくのだから。
もし今の色が変化するとしたら、赤が抜けて錆の黒っぽさが残るに決まっている。
私の脳裏には、牛蒡が浮かんでいた。
市販の綺麗に洗われたあとの牛蒡ではなくて、畑から取れたあと粘り気が強い泥を落とすために、しばらく水につけたままになっている牛蒡だ。
灰汁が水の中に溶け出すから、水路の水を貯めて牛蒡をつけておく部分は、いつも染めたように真っ赤になっていた。
そのときの色。つまり泥と牛蒡の灰汁色だ。
この美容師は、私が実は牛蒡農家出身だというのを見破っていたのだろうか。
いやそんなはずはない。
だけど、今更どうなるだろう。
どうですか、と言われても私は怪訝な感情を表に出さない様に注意しながら、はあと頷くより他ないのだった。
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