望月 鏡翠
2023-12-08 20:28:20
886文字
Public 日課
 

#1201 「除虫菊」「偽物」「金魚鉢」

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 五月、初夏といっても日差しの下にいると既に体が焼けこげるような夏の気配がすぐそこにある。きっとすぐに憂鬱な長雨が続き、そのあとは夏が待ち受けている。
 帽子を被って外出し、戻ってくると隣家の人が庭の手入れをしていた。ゴールデンウィークのあたりから咲き始めたマーガレットが風に揺られている。
 まめに手入れをしてあって、いつみても綺麗な庭だ。目が合えば挨拶する程度の関係だが、いつも目を楽しませてくれてありがとうという気持ちで、思い切って声をかけてみた。
「いつも綺麗ですね」
 農作業用のしっかりとした日除帽子をかぶっていた夫人は人当たりの良い笑みを浮かべた。
「そうなの、今は除虫菊が盛りでね」
 知らない単語が耳に飛び込んできたので、混乱してしまった。花盛りを迎えているのは、黄色に白い花弁で縁取られたマーガレットのはずだ。詳しく話を聞いて、私はようやく自分の誤解を知った。
 その花は、マーガレットの偽物だった。いやこちらが勝手に勘違いしていただけなのだから、その言い方は酷いかもしれない。
 除虫菊という別の種類の花なのだという。蚊取り線香の材料になり、その名の通り虫除けの効果があるから、植えてあるのだという。その白い花が庭の他の植物を守ってくれているのだという。
 見た目も美しいので、せっかくだから分けてもらった。
 流石に防虫を歌うだけのことはある。虫食いも病気もなく、綺麗に咲いている。
 花束をお裾分けをもらって家に帰った私には、一つの問題があった。
 花瓶がないのだ。たくさんの花はとてもではないが、ペットボトルに入る太さではないし、コップでも花が重すぎて倒れてしまうだろう。
 迷った末に、今は住人がいない金魚鉢を代用することにした。縁が広すぎるから傾くが、とりあえず水に浸かって延命することはできる。
 家の中に彩りが加わって、私は満足した。
 一つ言添えておくと、もともとの住人の方も死なせてしまったわけではないから安心して欲しい。
 見た目が可愛いだけの金魚鉢よりも、もっと水温と水質の管理がしやすくて広い家に移動してもらっただけだ。