望月 鏡翠
2022-01-07 21:51:07
1735文字
Public 日課
 

#500 これからのことと今日の討伐

FF14創作/#毎日最低800文字のSSを書く

 ティカの目が覚めたのは、陽が落ちて暗くなってからだった。ケイムヴォルクが火を起こし野営の支度を整えて、ティカを守っていた。
「あ、ティカ大丈夫ですか?」
「うん」
 体に異常はない。意識ははっきりしているし、気を失う前の記憶もしっかりと残っている。痺れが残っていないかどうか立ち上がって確かめたかったが、毛布や上着が体にぐるぐると巻きつけてあるので立ち上がることができなかった。芋虫のようにもぞもぞと這いずっていると、ケイムヴォルクが幾重にも巻かれた布を順番に剥いで行った。
「何があったんですか?」
 ティカは首を横に振った。よくわからない。体が急に動かなくなった。体調面では心当たりがない。今だっていたって元気で、お腹も空いている。ケイムヴォルクがスープを手渡してくれたので受け取って口に運ぶ。指先の痺れなども残っていない。
 あのモンスターの影響ならば、ケイムヴォルクの方にもなんらかの影響があっていいはずだし、あれはそもそもそこまで複雑な体の構造はしてない。一緒に行動している二人の内、ティカだけに当てはまる条件。ティカは己の推理が嫌になってため息をついた。
 翌朝、陽が登るのを待ってから村に帰る。依頼人にクエストの報告をするためだ。今回依頼を受けたのはティカだった。だから依頼人と顔を合わせたのも、ティカだけだ。
 そこで振る舞われたお茶が、食べているものも行動もほとんど同じであるケイムヴォルクとティカの唯一の違いだった。
 村の人間は幽霊を見たような顔で、戻ってきたケイムヴォルクを見つめた。
「私が死んでいなかったのが、意外だったか?」
 依頼人の男は、ティカの後ろにいるケイムヴォルクを見て、仲間がいたのかと苦々しく呟いた。
 お茶に混ぜたのはおそらく遅効性の痺れ薬だ。致死性の毒を入れなかったのは、殺人の疑いがかかることを避けたからだろう。市井ではただの冒険者だが、ティカは一応はエオルゼアの守護者とまで言われている。殺されれば、犯人も無事には済まされない。
 依頼によって畑を荒らしの痕跡は辿れば、危険なモンスターの縄張りに踏み込むように誘導されていた。そこで体が痺れて動かなくなれば、結果的に命を落とす。直接手を掛けたのが獣ならば、それは事件ではなく不幸な事故だ。
 彼の誤算はティカの体力を常人並みに見積もっていたことだ。薬が効くよりも前に、モンスターと遭遇してしまった。それでも戦闘で体を激しく動かしたことがきっかけで、狙い通りモンスターの前で体を痺れさせることにはなった。
 だがティカのそばにはケイムヴォルクがいた。その命を常に守り、支えてくれるただ一人の人が。
「なんで、そんなことをしたんですか」
「俺の顔を、覚えてるか?」
 見覚えはない。体つきや身のこなしから、軍人だろうという推測はできた。だが情勢が不安定だったこの世界に置いて元軍人など大量にいる。嘘を吐いて知っているフリをするのは不誠実だ。ティカは素直に首を横に振った。
「なんでこんなところに俺たちがいるのかわかるか? モンスターが出る。土地は痩せていてろくに作物が育たない。狩りに出られない怪我人ばかりの村が、なんでできたのかわかるか? 想像はつくだろうよ。だがお前は覚えてないんだ。その程度なんだ。英雄様にとって、俺らの人生なんてのは! 」
 多くを為した。多くを救った。きっといくつかは歴史を超えるような戦いだったし、記録にも残らないような争いにも、何度も身を投じた。辿り着く先に希望があると信じていたからだ。今も信じている。
 だがそれによって全てが救われたわけではないし、変革は万人を幸せにしながら進むわけではない。
「そのことについて、私は謝るつもりはない。私には譲れない信念があった。君たちもそうだったのだろう」
 大きな戦いが終わった。ティカにはこれからを考えて今までを振り返る余裕が与えられた。
 それはきっとこの世界に生きる誰もが同じで、戦いの渦中にいたときとは別の痛みを伴いながらこれからを考えていかなくてはならないのだろう。だからティカは、彼らの人生を大きく変えてしまった者として、こう答えるのだ。
 私は自分の選択を後悔していない、と。