血生臭い獣道の奥から、生き物の気配が近づいてくる。地面に当てた手の平から獣が一歩一歩地面を踏み締める振動が伝わってくる。やがて縄張りの主が姿を現した。木々を押し除ける巨躯。その爪は血で濡れている。
依頼されたモンスターとは違うが、これを放置すればいつか人里に害をなす。ケイムヴォルクと視線を合わせ、互いの意見が一致していることを確かめた。
「ケイム、背中は任せた」
「気をつけて」
武器を構え、仕掛ける。手足は分厚い毛皮に覆われていて攻撃が通りにくい。仕守りを固めようがない場所を狙う。関節部は守る物がなく皮膚も薄そうだ。後は目玉といった粘膜部だろうか。外見を観察して弱点を割り出す。
届かないとわかっているがまずは手元を軽く斬りつけて、敵意をこちらに集中させる。ふるわれた爪を掻い潜って、幹を蹴り樹上に駆け上がる。顎が大きく発達して首は上からは狙いにくい。前足を掻い潜って下から仕掛けるのも困難だ。顎を掻い潜って目玉を狙うしかない。一人の場合ならば、だが。
空中に飛び上がったティカを追いかけ、獣が上を向く。ケイムヴォルクはガラ空きになった喉に魔法をたたき込んだ。喉が焼け焦げ、獣は苦悶の呻きを上げながら頭を振った。手傷を負わせた相手に怒りを向ける程度の知性はあるらしい。
魔法が飛んできた方に足を突き出すが、木の影に退避したケイムヴォルクはそこにはいない。
その隙にティカは畳みかけた。目を狙って剣を振り下ろす。
浅い。
問題はない。獣の頭を蹴って距離を取り、詠唱を省略して魔法を放つ。体は大きいが、二人にとってそれほど危険な相手ではない。更に一気に畳み掛けるとどめを刺そうとしたのだが、指先がもつれた。力が抜けて腕が上がらない。剣が手から抜けていった。
体が痺れている。毒か。魔法か。どちらも食らった覚えはない。考えても答えは出ない。ケイムヴォルクの無事を確かめようと視線を送り、そこでティカの体は木の上から滑り落ちた。
体勢を立て直すことも受け身を取ることも叶わない。地面に激突すると思われたが、寸前で体が抱き留められた。
「ティカ? どうしたんですか。しっかりしてください」
「獣は」
持つれる舌で言葉を絞り出す。
「倒れました。大丈夫です」
なら、よかった。そう言おうとしたのだが、舌が痺れて全く言葉にならなかった。
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