望月 鏡翠
2021-12-27 23:43:53
892文字
Public 日課
 

#490 交渉役

FF14創作/#毎日最低800文字のSSを書く

 最初に来たルガディンはそもそも嘘がヘタクソだった。しかもそれを指摘されるとうまくごまかすことができないで、たじろいでしまっていた。あの時と同じようにあしらえると思っていたのに、ミコッテは至極やりにくい相手だった。全く表情が変わらない。その感情が全くわからない顔で人の顔をじっと見つめてくる。
 何とか揺さぶってボロを出してやろうと思っているのに、言い募るうちにこちらが余計なことを言わされている。これでは不利になるばかりだ。それどころか向こうのいいように交渉を勧められてしまう。
 揉め事は交渉で解決する。だが交渉の手段については、俺に一任されている。所詮ルール無用の裏稼業で稼いでいる荒くれ者共の世界のことだ。話し合いなどと文明的なふりをしていても、強いものが勝つという原始的なルールが支配している。
 こちらが出した条件にイエスと言わせて、書類にサインをさせればいい。それで面倒なことは全て終わりだ。小柄なミコッテは、殴ればよく飛びそうだった。そう思いながら拳を叩き込む。
 褐色の肌を赤が汚した。彼は拭いもせず、唇に垂れて来た血を舌で救い上げた。全く怯むことがない。むしろミコッテの男はふるわれた暴力に対して、うっすらと笑みさえ浮かべて見せた。
 それは彼がここにきて初めて見せた表情らしい表情だった。
「なるほど。これは有意義な話し合いができそうだ」
 背筋が凍るような冷たい声をだして、俺を見上げる。椅子に座れとその指先が示していた。逆らうことができず、再び席についた。
「あの子は人を信じすぎて優しすぎる。だから君たちが反省すると言えばそれを信じるだろうし、チャンスを与えただろう。だがここに来たのは、あの子ではない。私の方が適切だと判断された。その意味がわかるか?」
 ぽたぽたと鼻血が滴り落ち、テーブルに汚れを作っていく。
「私の雇主はもう、君にこれ以上チャンスを与えるつもりがない」
 そこでようやくミコッテは鼻から垂れ流されたままになっている鼻血を見た。汚れを見おろすときの顔と、俺を見るときの顔は同じだった。全く同じ、汚いものを見る目をして見つめていた。