望月 鏡翠
2021-12-27 05:16:28
895文字
Public 日課
 

#489 噂の人

FF14創作/#毎日最低800文字のSSを書く

 やばいやつが来ているらしい。
 子供の与太話でももう少し出来がいいだろう。具体性が何もないぼんやりとした言い方だった。だがそれはまことしやかに裏家業の人間たちの間で囁かれ、近頃の酒の席での話題の中心にまでなっていた。噂の元を辿り情報を集める内に、それは腕利きの冒険者のことを指しているらしいということがわかった。
 ただの冒険者のくせに、英雄だの神殺しだの大層な噂が付けられているらしい。俺の経験ではその手の二つ名をくっつけている人間は大体が騙りだ。そんな力を持っている人間がどこの国にも抱えられずに生活が不安定な根無草をやっているはずがない。だが、多少は腕が立つからそんな噂を背負っていられるのだろうから、いざ目の前に現れたら手を抜かないつもりだった。
 特に交渉役として、向こうが腕のたつ冒険者を雇ったと聞いたときは警戒したものだ。やって来たのが体格のいいルガディンの男だったことも、理由の一つだった。だが、そのルガディンの男は外見に反して内面はやわで、形だけの反省の態度をすんなりと信じて笑顔を見せ、最後にはありがとうございますとお礼すら言って帰っていった。
 全く拍子抜けだった。やばい冒険者とやらが街に来ているとして、それは俺たちとは一切関わりがない場所にいるのだ。
 次の日から、またでかい顔ができるようになった。
 話し合いが済み、お互いの利益の追求について妥協点を見つけられたと思っていた向こうの組織は、俺たちが好き勝手に活動していることを知ると、再び交渉役を送りつけて来た。あの冒険者がまた来たところで大した問題にはならない。
 また適当にあしらって追い返せばいいのだと、俺たちはたかを括っていた。しかし、当日にやって来たのは、想像だにしない人物だった。ルガディンの男よりも更に弱っちい見た目をした小さなミコッテ。シャーレアンの連中が着るような行儀のいい服を着て、しかも一人でやって来ていた。
「この前のデカブツは今日はどうした」
「今日は来ない。あの子には向かない内容だ」
 以前来たルガディンの男を指しているのだろうが、あの子という言い方をしたのが気になった。