望月 鏡翠
2021-12-25 05:33:02
849文字
Public 日課
 

#488 最近の二人

FF14創作/#毎日最低800文字のSSを書く

 地脈の中から脱して再び現実に戻って来た体がエーテライト広場に降り立った。オールドシャーレアンには他の都市にはない独特の活気がある。声高に魚の値を叫んだり、通行人に道を開けるように叫んだり、記憶を失うまで酒に溺れて床で寝たりする人間の数が少ないからだろう。
 ティカは、リンクパールに連絡をしようとして思いとどまった。ケイムヴォルクの邪魔をしたくなかったし、聞かずともどこにいるのか分かったからだ。今日は天気がいい。風も穏やかだ。
 洋の中に浮かぶ島に築かれた街は、高台に登れば海が見える。坂道を登り、木立を抜けた先にあるのは、ヌーメノン大書院だ。都市の住人でも賢人でもない冒険者は公開講堂までしか立ち入れないが、それでも識字率の低いエオルゼアの各都市に比べれば驚くほどたくさんの本がある。
 図書館の近くの東屋に、探し人の姿を見つけた。
 ケイムヴォルクは静かに本を読んでいた。
 隣に積まれた本を見て、ティカの唇に笑みが浮かんだ。二つある山のうち、どちらが既に読んだ本でどちらがこれから読む本だろう。一度引き返し、ティカはラストスタンドでコーヒーを買ってから彼の元に戻った。
 何も言わずに隣に座る。
 コーヒーの匂いか、それともティカの気配を感じ取ったのか、ケイムヴォルクは読んでいた本から顔を上げた。
「ティカ」
 コーヒーを差し出す。借り物の本が汚れないように、読みかけの本に栞を挟んで閉じてから、ケイムヴォルクはカップを受け取った。
「おかえりなさい。ありがとうございます」
「ただいま。今日は何を読んでいるんだ」
 読みかけの本のタイトルを覗き込む。彼が読書をしている場所は日によって違ったが、どこにいてもわかる。風に招かれるように歩き、一番心地が良い場所に足を向ければそこに彼がいるのだ。時折、共に本を読む。読書の気分でないときは膝を借りて眠り、時々一緒にコーヒーを飲む。
 それがどこであろうと、依頼が終われば必ずケイムヴォルクの隣に帰る。ティカの唯一の帰るべき場所だった。