望月 鏡翠
2021-12-24 05:58:45
1085文字
Public 日課
 

#486 薄汚れた毛玉

FF14創作/#毎日最低800文字のSSを書く

 抱いてみてくださいと手渡された生き物はとてもふわふわとしていて、体温が高いから少し湿って感じられた。見知らぬ人間が嫌なのか、もっと遊びたいところだったのか子猫はティカの手から逃れ出ようとジタバタと暴れた。おもちゃのような小さな肉球が指を叩き、鋭い爪が皮膚に赤いミミズ腫れの傷を残す。
「私は動物は飼えない」
 そもそも家がないし、生活も不規則。乾いた砂漠から雪に閉ざされた山まで忙しなく移動する旅暮しである。とてもベットにストレスのない住環境を提供できるとはいいにくい。ティカと行動を共にできる生き物といえば、エーテルで編まれた魔法生物や人形の類や軍用チョコボのような環境変化に強い丈夫な生き物くらいだ。
「いえいえそこをなんとか。引き取ってくれとは言いません。少しの間預かってくれるだけでいいんです。その間になんとか飼い主を見つけてきますから。この街に滞在している間だけでも。ね、お願いしますよ」
 ティカ・ア・ジャロウという人間は、どこに行ってもどんな状況でも人に頼まれごとをする宿命らしい。ここまでくるともう、そういう星の下に生まれたのだから仕方がないと開き直るしかなかった。
 その子猫はティカたちが泊まる予定だったコテージの軒下にいたらしい。他の兄弟や親猫の姿はなく、どうやら弱く育ちの遅かったその子は置き去りにされてしまったのだ。利用客の受け入れ準備でコテージの鍵を開けた管理人が発見をした。見つけたときは弱っていて生きるか死ぬかの瀬戸際にいたらしいが、懸命な世話の甲斐あって、今ではゴム毬がごとく跳ね回るまでに回復した。
 となると今度はどこで誰が面倒を見るのか、という問題が生じてくる。利用者がいない間はいいが、これから何組か迎える予定がある。食事の用意も含めたお客の対応の最中にじゃれつきたい盛りの子猫を放しておくわけにもいかない。仕事が終わるまで放っておくのも可哀想だし、心配がある。せめて誰かに見ていてほしい。
 そういうわけで、たまたま無料でコテージを借りることになっていたティカに白羽の矢がたったというわけだ。無料で止まるのだから頼みごとの一つくらい。そういう話らしい。それとて過去の依頼で金銭的対価が払えなかったので謝礼の代わりにという話だったのだが、この際細かい話は脇に置いておこう。
「私は猫を飼ったことなどない。それでもいいのなら」
「ええ、ええもちろんですよ。餌も必要なものも、こちらで用意しますから。ただ様子を見てやってくれれば」
 見ているだけでいいのならと、ティカはその小さな毛玉のような塊を部屋に連れて帰ることにした。