望月 鏡翠
2021-12-21 18:21:13
985文字
Public 日課
 

#484 ペットの猫ちゃん

FF14創作/#毎日最低800文字のSSを書く

 子供の頃は純粋に、街で起こる数々のイベントを楽しむことができていた。季節毎の祭りにはそれぞれしかるべき由来もあるのだろうが、当日に気になることと言えば星芒祭で街がきらびやかに飾り付けられているにも関わらず、一緒に見に行く恋人もいないというその一点だけだ。
 日々の稼ぎを手にするだけで精一杯だ。その上で出会いを求める時間や、女性をデートに誘ったりする金が一体どこから出てくるというのだろう。そんなことをしていたら出世の見込みもないまま中年だ。
(誰でもいいから俺を慰めてくんねぇかな)
 そんなことを考えているふてくされた成人は、広場のベストスポットに居場所がない。カップルや親子から距離を置いたツリーが見えなくもない街角に腰掛けて、温めたワインを啜る。雪の結晶はマグカップに落ちる前に熱で溶け、あるいは立ちのぼる湯気に押しのけられていった。
 目の前をそんな雪の塊に似た白いふわふわが通り過ぎた。よく手入れされた毛並みだが、しろというには少しくすんだ灰色をした尻尾。
 あれは〝ペットの猫ちゃん〟だ。
 よくこの街にいるルガディン族の男に連れられている姿を見かけるのだ。常に一緒にいるように思っていたが、一人で街を歩いている姿も同じくらいよく見かけるから、必要なときに呼ばれる情婦か何かなのだろう。
 愛玩用には向かないように見えるのに、よくあれを選んだなという印象で記憶に残っていた。小柄だが幼いわけではないのだ。あれでは育ちすぎている。体つきもしっかりしていて男臭いし、顔に傷がある。格好も冒険者風だから、ただ飼われているだけでなく別に体を使う仕事もしているのだろう。前ちらりと見たときには体の方にも大きな傷があった。毛並みを丁寧に整えられ大切にされているようだが、到底売れっ子であるようには見えない。
 連れているルガディンの男の方は、気が弱くうだつが上がらなさそうに見えるのだが、逆らうこともなく付き従い、甘えついている。独り身からすると羨ましい限りだ。
 もしかしたら、相当安いんじゃないか。俺にも買えるくらい。そしたら安宿で過ごす夜にも多少は彩がでる。こんな寒い日に寂しい思いをしなくていい。雌でもう少し抱き心地がいいのがいいが、何しろ金がない。あれだけ筋肉があるのだから暖かいだろう。
 ひらめきと共に財布の中身を確認し、揺れる尻尾を追いかけた。