望月 鏡翠
2021-12-18 00:16:50
1048文字
Public 日課
 

#480 もしもの話

FF14創作/#毎日最低800文字のSSを書く

 時折、愚かなことを考える。
 ここに至るまでの道筋の中で他の選択肢を選んで、今ではない未来が存在したらどうなっていただろう。今まではどうせ引き返すことなど出来はしないのだから考えるだけ無駄だと、切り捨ててきた。しかし平行世界や別の時間軸、あるいは過去への干渉という力の一端に触れてしまった。もう知らなかった頃に戻ることはできないのだ。
 以来、それはふとした瞬間にティカの胸に差し込んできた。
 例えば、ケイムヴォルクが怪我をしたとき。ティカが下した判断が彼の心に傷をつけたとき。
 彼は私が隣にいなければ、もっと平穏に生きられたのではないか。そんなことを考えてしまうのだ。
 彼のような優しい人が戦場に立たずにいられる世界が欲しかった。彼が傷付かずにいられるように盾と剣を手に取った。しかしティカが進む先にあるのは、いつだって最も苛烈な戦場だった。
 ティカの旅路に付き添ったのがケイムヴォルクでなければ、ここまで生き延びることはできなかった。いつだって、背中を守ってくれる存在を感じているからまっすぐに進むことができた。彼に恥じる振る舞いだけはできなかったし、自分が膝を折ったら背に守っている人はどうなると考えれば、どんな痛みも耐えられた。未来の可能性をティカが諦めても、ケイムヴォルクが諦めなかった。
 今となっては掛け替えのない半身だ。
 だがティカが関わらなければ、彼の人生はもっと平穏だったのではないだろうか。一介の冒険者でいられたのではないだろうか。
 そんなもしもを考えてしまうのだ。
 だが考えたところで、ティカは今更、彼から離れて生きることはできない。可能性を知ってしまったときと同じだ。今更知らなかったときには戻れない。相手の未来を痛みで塗りつぶしてしまうかもしれないと分かっていても、手放したくないし、そばにいて欲しい。
 それほど強く求めている癖に英雄として生きることを止めることもできないのだ。ケイムヴォルクを何よりも大切で掛け替えがないと思っているのに、他の何もかもを投げ捨てて相手のためだけに生きることはきっとできない。きっと彼を失っても、この足を止めることはできない。託されたものの価値と、背負ったものの重さが立ち止まることを許さない。
 どれほど世界の美しさをみても、人の尊さをみても、仲間の優しさに触れても、ティカの本質は薄情で残酷だ。愛情のためには生きられない。
 いつか、何もかもを捨てて君のためだけに生きたい。
 それも、叶わないもしもの話だ。