宿屋に戻ってきたティカは、テーブルの上においてある二つの包みに気がついた。贈り物用のラッピングが施されたそれは片方に「ティカへ」と書いたメッセージカードが添えてあった。深い海の色をしたインクの筆跡はケイムヴォルクのもので、そうと意識しないままに揺れた尻尾が、後ろにあった椅子の座面を左右に掃いた。
「ティカに似合いそうな服を見つけたんです!」
数日前、興奮した面持ちでケイムヴォルクはティカに詰め寄ってきた。
裁縫師ギルドに所属するようになった彼は、心配するティカを尻目に指先を針で突きながらも着実に成長し、立派に職人として仕事を得るまでになっている。そんな中で見つけたのが、件の服なのだという。
本来はお屋敷で働く使用人が着る服だが、格式高い店の制服にも採用されているという。
たまには自分のためにお金を使ってほしい。そう言っても聞き流すばかりで、いそいそと採寸を始める始末だ。
だからティカは一つの条件を出した。
同じ服を、ケイムヴォルクも身に着けること。
フォーマルな服だというからきっと彼にも似合うはずだ。彼の性格ならばいかにティカに着せたいからといって、自分か一度も袖を通すつもりもない服を職人に手をかけて作らせはしまい。そういうことならとケイムヴォルクは頷き、採寸の結果を二人分いれて工房に送った。
それから数日後、届いたのがこの包みと言うわけだ。
これだけ届けて、ケイムヴォルク自身はまたどこかに出かけたらしい。戻ってきたときに、きて出迎えたら喜ぶだろうか。包みを破り、出てきた服を体にそわせたティカは首を傾げた。
「スカート?」
ひらりと裾が広がるそれは、どう見てもエプロンドレスに見えた。ご丁寧にパンプスとドロワーズ、白いヘッドドレスも添えてある。
確かに、お屋敷で働く使用人が着る服だ。ケイムヴォルクはこれがティカに似合うと思ったのだろうか。
ティカはテーブルの上にある手付かずの包みの方をみた。記憶が間違いでなければ、あちらにはルガディンサイズでこれと同じものが入っているはずだ。彼がこの服を着るところを、頭の中で想像してみる。
悪くない。
ふむ、と一人で納得をして、ティカは着なれぬ服に袖を通した。
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