望月 鏡翠
2021-12-12 21:40:50
1107文字
Public 日課
 

#475 ダルトン家滞在日記12

FF14創作/#毎日最低800文字のSSを書く

 孤児院にとって、双子を引き離すメリットはどこにもない。ダルトンの経済状況であれば子供が二人に増えても大きな問題はないのだから、むしろ二人同時に引き取ってもらった方が経済的にも都合がいい。だからおそらく片割れは、ジェストよりも先にどこかに引き取られていったのだろう。おそらくあまり経済状況がよくない場所に。
 身に纏っていた服を見れば想像がつく。
 二人が再会したのは、ジェストがダルトン家に引き取られたあと、街に出るようになった頃だろうと想像できる。
 片方は恵まれた環境で裕福な生活を、片方が貧しい生活を。
 無理のある入れ替わりを演じる切実な理由。彼ら自身が思いついたことなのか、それとも悪い考えを持って彼らの保護者が言い出したことだったのかもしれない。
「つまり、あの子の兄弟はそのまま生きていくには難しい生活をしていたと?」
「その可能性が高いと思う」
 どんな苦しみも、分かち合う相手がいれば耐えられる。ジェストは入れ替わってる間、兄弟の苦しみを背負ってやることができる。ジェストの兄弟は、入れ替わっている間だけ優しい家族と食事と暖かい寝床を手に入れて、ひとときの夢を見ることができる。
 人に合わないようにしていたのは、街の人間にジェストの兄弟を知っている顔がいるかもしれないからだ。
 屋敷から消えたのはジェストだけではなかった。銀食器や燭台など金になるものがいくつか、姿を消していた。子供の手で運べるだけ詰め込んで持っていったのだ。
 ティカが見失ったあと見つけられなかったのは、探す場所を間違えていたのだ。
 あの子は街に逃げ戻ったのではない。屋敷に戻っていたのだ。入れ替わりが露見したことを悟った。もうこれ以上、ダルトンの元で暮らすことはできないと思ったのだろう。
「あの子たちはこれからどうするんですか」
「わからない。誰か盗みを指示したものがいたのかもしれないし、彼ら自身があれが必要だと判断したのかも。少なくとも、ここには戻ってこない」
 ダルトンはすっかり冷めてしまった紅茶の水面をじっと見つめていた。淹れ直しにくる人間がいないのは、入ってくるなと言いつけられているのかそれともまだ屋敷の中を探し回っているのかもしれない。
「あの子の声が出ない原因を探ってほしいと、前にお願いしましたね」
 長く思える沈黙のあと、ダルトンはようやく決心がついたらしかった。
「もう一つ、お願いがあるんです」
「それはお願いでなくていい」
 ティカはテーブルの上で固く握りしめられていたダルトンの手を握った。
「あの子たちは、必ず無事に見つけて連れ帰ってくる」
 ダルトンは無言のままうなずいた。