大勢の手を借りたにもかかわらず、子供は見つからなかった。だが幸いにして惨劇が起こったという痕跡も見つからず、少なくとも街までは逃げおおせたのではないかという結論をもって、夜間の捜索は打ち切られた。これ以上は手を貸してくれた人たちを危険に晒すことになるから、日が出てから改めて探せばいいとなったのである。
屋敷に戻り、ティカは一度湯浴みをして血のついた服を着替えた。応接室に戻ると、ケイムヴォルクとダルトンが待ち構えていた。
「子供がいたから追いかけたと伺いました。もう少し詳しくお話を聞くことはできるでしょうか」
ティカはまず自分が目にして、確実に起こったことから話した。
窓の下をみて子供を発見し、追いかけてから今までの出来事。
そして次に自分の推測を話した。ジェストが双子だということ、そして声を発しなかった理由も。
「ま、待ってください。双子だというのはまだわかりますが、入れ替わっていたというのは些か突飛では? 兄弟が会いに来ていただけかもしれない」
だが貧民の格好をしている方は、あの暗がりでティカを認識していた。こんな人がいると伝え聞いていたから推測したのではなく、みた瞬間に理解した顔をしていた。夕食のときに挨拶をしたジェストはあちらであるはずだ。
だが、屋敷に残っている方もなんの違和感もなくジェストと受け止められていた。少なくとも昨日や今日に始まったことではない。入れ替わったのなら、それこそジェストが声を出さなくなったときに見受けられた諸々の異変や性格の変化があるはずなのだ。
「私は、あの子が双子だなんて知らなかったんです。孤児院でも、そんなことは少しも」
「明日孤児院や街で調査をして、本人とも話をして確信を持てるようになってから伝えるつもりだった。勘違いでしたでは済まない事柄だ。だが思ったよりも早く事態が動いてしまった」
「本当は、まだあるんじゃないですか。ティカさんの推測が。あるのであれば聞かせて欲しい。確信などなくても、構いません」
敵わないな、とティカはため息をついた。ダルトンはお見通した。確かに推測はもう一つある。なぜ、そんなことをしたのか、という部分だ。なぜティカが口にせずにいるのか、それがダルトンにとって喜ばしい内容ではないことにも想像がついているのだろう。
「わかった。だがこれはあくまで私の想像だ。あの子たち自身の言葉をよく聞いてやってほしい」
「もちろんです。ただ最悪の事態が起こったときにあの子たちの前で顔に出さぬように、聞いておきたいんです」
ダルトン家の人間に全く見つからないように入れ変わるのは簡単なことではないし、今日のように道中で危険な目にあうこともある。面白半分や単なる悪戯でできることではない。
ティカが口を開きかけたとき、メイドが部屋に飛び込んできた。
「なんだ、今大事な話を」
「でも、あの、ジェスト坊ちゃんがどこにもいないんです」
ジェストもその入れ替わりの双子も、どちらも屋敷の中から姿を消していた。
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