もてなしのあとは、当初の予定の通り牧場の仕事を手伝いに出た。もうすぐ毛刈りの時期を備えている羊たちはもこもことしていて、世話をするティカは向かう途中からすでに尻尾が左右に揺れはじめていた。
広い牧草地の中、周囲に人はいないし身を隠す場所もない。
人にはばかる話をするのに都合がいい場所は、周囲の音が聞き取れないほどの喧騒の中かあるいはだだっ広い空間の真ん中だ。
「ジュスト君のこと、あとでおれがみてみますね」
「頼む」
癒し手の技を扱うケイムヴォルクは、エーテルの乱れや呪いの類を読み取る力がティカよりも強い。それが魔法や呪いの類ならば、ことは明快で解決はよほどたやすいことだろう。
「ダルトンさんが、原因だとは思えないんです」
「どうだろうな」
隣を歩いていたケイムヴォルクがピタリと足を止めたので、ティカは彼の方を振り返った。世話になっている相手をに僅かでも疑いを抱いていることに、彼はショックを受けたらしかった。
「来客に友好的だからといって、家族にとっていい父親とは限らない」
ケイムヴォルクが情を傾け、世間で英雄の評を受け取ってるティカだって、弟にとっていい兄ではない。そしてティカが戦いの最中で屠った相手の家族や友人から見れば、憎むべき家族の仇であり復讐相手かもしれない。相手が変われば関係は変わる。こちらの目から見て紛れもない善人だったとして、別の方から見たらどうかはわからない。
だがそれをわかっていて、ティカやケイムヴォルクに様子を見てくれと依頼したダルトンの判断は信頼できるものだと思う。だからこそ解決に臨むときは、感情的判断を入れずに誠実でありたい。
「だが、彼が原因でなければいいと思うし、彼の息子には声を取り戻させてやりたい。そう思っている」
そう言葉を続けると、ケイムヴォルクの表情がようやく和らいだ。
「はい。おれもそう思います」
調査のために、声が出なくなった前後の状況を詳しく知りたい。使用人など周りの人間からもう一度確認する必要がある。そして何よりジェスト本人に信頼してもらえるくらいに、親しくなる必要があった。
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