静かな風が吹き抜ける桟橋で、ぼんやりと釣り糸を垂らす。長閑な風景のはずなのに、ティカの白い耳は三角形にピンと尖っている。警戒あるいは周囲に注意を払っているときの動きだが、理由が何故なのかケイムヴォルクにはわからなかった。
リムサロミンサの都市内部、大っぴらにはなっていないものの近くにはこの街の掟を預かるものの拠点もある……らしい。ティカはどうやらそちらの組織にも出入りがあるらしい。ともかく治安上の不安はないはずの場所だ。
釣竿の動きから目を離しその挙動を追いかけていると、どうやらティカの注意がケイムヴォルク自身に向いているというのがわかった。
(また何か、怒られるようなことをしたのかな)
付き合いが長いとそういうこともわかる。バレたらどうしようと思っていることがあると、耳がケイムヴォルクの方を向くのだ。顔にも言葉にも出ないから本来なら気づかずに終わるはずのことがそのせいで見つけられてしまう。
一体何を隠しているんだろう。
ティカの動きをじっと観察する。
魚を釣り上げ、餌を新しくつける。その指先に赤紫色の羽毛をした小鳥がじゃれついて、生き餌の虫を奪って飲み込んだ。食べ終わると膝の上に戻って毛を膨らませて暖まっている。そのフォルムと動きになんとなく見覚えがある気がしてきた。
「ティカ、その子トリですか?」
ティカの耳が反応した。
トリというのは、ティカが小鳥につけているあだ名だ。海に行ったときに釣り餌の虫を目当てに寄ってきてそのまま懐いてしまったらしい。チョコボにつけた名前と比べて随分とシンプルで、時々味を気にするようなそぶりを見せるのでいつか丸焼きになってでてくるのではないかと懸念していたのだが、元気にやっていたらしい。
問題は、その大きさと毛色だ。前に見たときは白黒の小鳥だったはずだ。
「ちょっと、大きくなっていませんか。毛の色も」
「冬毛なんだ」
耳がぺしょりと下を向いた。小鳥を手のひらに乗せてみる。飼い主でない人間に触られているのに、逃げもしない。懐いているというよりは、すこし……。
「太ってますね。毛の色も変わってませんか」
「いや、別に。そんなことはない」
「チョコボのおやつもあげてます?」
目を逸らす。図星らしい。チョコボの毛の色を染めるためのおやつが、小鳥にも影響があるとは知らなかった。それはともかく問題は、肥満の方だ。
「ダメですよ、体に悪いですから。ちょっと運動させましょう」
ティカの元まで飛ぶ距離が増えるように遠くに移動させると、小鳥がチッと抗議の声をあげた。不満げなときの顔は、飼い主にそっくりだった。
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