期待に満ちた瞳がケイムヴォルクをじっと見つめている。やりにくさを覚えながら米を炊く。普段の主食はパン。たまにパエリアやドリアを作ることがあるものの、東の国の米はそれらとは扱いが違う。少し緊張しながらケイムヴォルクは竈門の火を調整した。
ステーキを食べ損ねてお腹を透かしたティカを待たせておくことはできなかったので、寿司を作っているのは次の日だった。二人で釣りに行き、取れた魚はまだバケツの中を泳ぎ回っている。
「ティカ、そんなにすぐにはできませんからね」
生魚の扱いは、ティカよりも海近くの町で生まれ育ったケイムヴォルクの方がうまい。そのせいか東の国の料理は彼の方が得意だった。ティカ自身はまだこちらの国の料理を全く覚えたことがない。
「これはいつ炊ける」
蒸気が噴き出してくるからあまり顔を近づけると危ない。ケイムヴォルクはティカを引き離して自分の後ろにやった。
「炊けても、直ぐには食べられないですからね」
生魚と合わせるから米が炊き上がってから少し冷まさないといけない。
「そうなのか?」
ティカが残念そうな顔をする。寿司を作ろうと決めたが一口に寿司といってもいろいろとある。箸を使い慣れていない人に食べやすいものはなんだろう。握り寿司にして手で食べてもいいのだろうけれど、やはり少し抵抗感がある。ちらし寿司なら、スプーンとフォークでも食べられるだろうか。
残った分は柿の葉寿司にして、依頼のときに持っていくお弁当にしてもらおう。
そわそわと落ち着きがないティカに、お使いを頼むことにした。
「ティカ、お米が炊けるのを待っている間に買ってきて欲しいものがあるんです」
「戻ってくる頃にはできているか?」
背中に抱きついてきたティカを引き剥がす。
「そんなに直ぐにはできないですよ。ティカ、そんなにお腹がすいてるんですか?」
買い物に行ったついでおやつを買ってきた方がいいだろうか。柿の葉を買ってきてもらう分として少し渡した代金がそのままポケットに戻される。
「実はな、ケイム」
ティカが突然神妙な顔になって、ケイムヴォルクに手招きをした。内緒話をする風だったので、招かれるままに口元に耳を寄せる。
「実は君に甘えていたかっただけなんだ」
「こら、ティカ」
おかしいと思ったのだ。ティカだって調理師だ。異国の料理と言っても多少の知識はあるはずである。米を炊く時間まで、幾度も確認しなければわからないというはずはない。
「君のご飯が待ちきれないのは本当だ」
捕まえようとした腕をするりと抜けて、ティカは商店街の方角に駆け出して行った。
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