ふわふわと白いものが目の前をうろうろとしている。その頭にくっついた赤い丸いものが揺れていて、みていると体がなんだかむずむずとしてくる。むずむずを晴らす方法は知っている。捕まえればいいんだ。じりじりと足を動かして獲物との距離を測り、飛びつく。生えたばかりの犬歯を突き立てると、ふかふかが悲鳴をあげた。
「クポー!!」
甲高い声にびっくりして獲物を離す。
「酷いクポ痛いクポ〜」
ふわふわは短い手でティカの歯形がついた箇所をさする。
喋った。獲物じゃなかったんだ。ティカは自分と同じくらいの大きさのそれをじっと見つめた。鼻と目がある。小さな羽が生えていて、ふわふわと飛んでいる。
「こんなにびっくりさせられたのは久しぶりクポ」
ふわふわは手が届かない高さまで飛んで逃げると、ティカを見下ろした。あの高さでもジャンプすれば届く。
「もしかしてキミ、モグのことが見えているクポ?」
白いふかふかは首を傾げる。
「珍しい人クポ〜」
見えているもなにも、そこにいる。飛び上がる準備で、じりじりと足を動かす。助走をつけてからジャンプすると、ちゃんと届いた。今度は逃さないようにしっかりと捕まえる。
「や、やめるクポ。お手紙を届けに来たんだくぽ〜」
「おてがみ」
お手紙は知らない間に届いていると言っていたけれど、実はこのふわふわが届けていたらしい。配達士を、ティカは初めてみた。お仕事中の人は捕まえちゃいけない。渋々、離してやった。
「ジャロウさんにお手紙があるクポ。キミ、どこにいるかわかるクポ?」
「じゃろう!」
ティカは自分を指差す。
「モグはお母さんの方だと思うクポ? ちゃんと渡すクポ〜」
お仕事が終わったのなら、獲物役をしてもらわないといけない。ティカは身構えた。
「ティカ、何してるのそんなところで」
母がティカの頭をポンと叩く。
「かり」
白いふわふわを捕まえるのに戻ろうと振り向くと、どこかに消えてしまっていた。
「何を狩ってたの? やだ、それお手紙じゃない。狩っちゃだめよ、返して」
握らされていたお手紙を母が持っていく。
そんなものよりさっきまでそこにいたふわふわを捕まえたかったのだが、どんなに探してもみつからなかった。
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