望月 鏡翠
2021-11-25 13:19:56
1253文字
Public 日課
 

#457 隠し事

FF14創作/#毎日最低800文字のSSを書く

 疲れ切って宿屋で眠っていたティカは、部屋の中に人が入ってくる気配で目がさめた。眠っているティカを気にして小声だったがただいまと聞こえたので、それがケイムヴォルクだということはベッドの中でも分かった。
 まどろみの中にあったティカは、身じろぎと寝言のような呻き声を返事にして彼が隣に来るのを待った。平生通りなら湯浴みをして荷物を整理したら、同じベッドに潜りこんでくるはずだ。しかし、いつまで経ってもケイムヴォルクの体温はやってこないし、石鹸の匂いを感じることもなかった。
 数刻、そうして室内に彼の気配を感じながら隣にくるのを待っていたが、そのうち待ちきれなくなってティカは身を起こした。
「ケイム」
「ぬわ! てぃ、ティカ。起こしちゃいました? うるさかったですか」
 ケイムヴォルクは手にしていた何かを慌ててテーブルの下に隠した。
「うるさくはないが……
 むしろ同じ部屋にいる彼があまりに密やかにティカから距離を置いているので、気になって目が冴えてしまったのだ。ランプの明かりを頼りに何かをしていたらしい。手にしていたものは早々に荷物の中にしまいこんでしまったのでよく見えなかったが、テーブルの上にあってキラリと光を反射するのは、裁縫に使う道具に見える。
 ティカはそれらを目にして眉を顰めた。
「もしかして、また怪我をしたのか?」
 気まずそうにケイムヴォルクが目を逸らす。
 近頃、彼は裁縫を始めた。新しいことを始めるのはいいことだ。ティカもたまに縫い物をするから、共有できる趣味ができたことは喜ばしい。問題は、それで彼が怪我をすることだ。隣で「いた」と小さく呻く声が聞こえてくるとティカは気が気ではないし、些細な刺し傷だが指先に巻いた絆創膏が着実に増えていくのを見ると胸が痛む。
 ルガディンでも器用に縫い物をする人はいる。ギルドマスターもそもそもルガディン男性だ。ケイムヴォルクがうっかり指先を突いてしまうのは、まだ針を扱うのに不慣れなことと彼自身が少し焦って作業をしていることが影響しているように思える。
 ゆっくりやればいい。
 その言葉にケイムヴォルクは頷いてはみたものの、納得はしていないようにみえた。
 付き合いが長いからそういう温度感も、多少はわかる。
「手当しよう。指先を、見せてくれ」
 ティカが近づくとケイムヴォルクは慌ててテーブルの上を片付けた。
 血の玉が浮かんでいる指先を拭い、手当をする。
 隠して何をしているのか、気になる。先に裁縫を始めたティカに手伝えることがあればと思う。怪我をしないでもらいたい。しかし隠したいと思っているのなら、それを暴くようなことはしたくなかった。
 ギルドの課題か、秘密にしたい依頼の納品物か、ティカに隠しておきたい何かしらの理由があるのだろう。
「些細な傷でも、君が血を流すのを見たくない。無理はしないでくれ」
「わかってます」
 ケイムヴォルクは微笑んで見せたが、やはり心に届いているのかいまひとつ確信がもてない返答だった。