望月 鏡翠
2021-11-20 19:58:37
1090文字
Public 日課
 

#452 帰路

FF14創作/#毎日最低800文字のSSを書く

 倒れたティカにすぐに駆け寄りたいのをぐっと堪え、ケイムヴォルクは周囲の安全を念入りに確認した。守らなくてはいけない人が、この場に二人いる。背後のマーティンは怯えて泣き出してしまっていて、とても一人で村まで帰れるような状態でなかった。
 動かないティカに妖精がまとわりついて必死に怪我を癒そうとしている。
 巨鳥は動かない。そして周囲に眷属の気配もない。
「もう大丈夫ですよ。怖いのはみんないなくなりましたからね」
 裾にとりついて、泣きじゃくるマーティンをなだめる。
「ティカは? ティカも平気だよね」
「ティカも、大丈夫です」
 確信はなかったが、そんなことを正直に答えるわけにはいかない。倒れたティカは、妖精が回復しているにもかかわらず反応がない。マーティンに血塗れの姿を見せるわけにはいかないから、落ち着かせてからその場に残し、ようやくティカのところに駆けつけることができた。
 呼びかけてみても返事はない。すぐに抱き起こしたくなるのを堪えて、息を確かめ脈を確認する。首筋に当てた指にとくとくと規則的な鼓動を感じ取ることができた。気を失っているだけのようだ。
 次に頭に怪我をしていないかをみるため、慎重に首を手で支える。
 そのとき、ティカのまぶたが震えた。灰色の瞳が薄く開き、やがてケイムヴォルクに焦点を結ぶ。
「大丈夫だ、ケイム」
 無事を知らせるようにケイムヴォルクの手をしっかりと握りしめる。
「大丈夫じゃないです」
 じわりと涙が滲み出て視界が滲んだ。返り血か彼自身の血かわからないほど汚れた頬を拭い、助け起こす。
「君が癒してくれたから、平気になった。マーティンは、無事か?」
「怪我はないです。怯えていますけど」
「無理もない。早く、村に帰ろう」
 ティカが立ち上がって歩き出そうとするので、ケイムヴォルクは後ろから捕まえてその体を抱き上げた。
「け、ケイム?」
 戸惑ったように腕の中でティカが身動ぎをした。
「自分で歩ける。降ろしてくれ」
「やです」
 暴れるので抱きすくめる力がいよいよ強くなる。
「マーティンを、送っていくんだろう?」
「マーティン君を家まで届けて、ティカはおれが運びます」
 守るべき子供に庇護するように抱き抱えられている様を見られて、罰が悪いのだろう。ティカはしばらくあの手この手で降ろしてもらおうとしていたが、村に着く頃には穏やかな寝息を立て始めていた。戦いの疲労と怪我の回復で体力を使い果たしていたのだろう。
 やっぱり無理をしていた。起きたら言いたい小言を胸のうちにしまい、ケイムヴォルクはティカをベッドに横たえた。