やんちゃな子供たちの冒険心と好奇心を刺激してしまわないように、子供たちに依頼のことは伏してあったはずだ。子供たちの中で、マーティンは無鉄砲というタイプでもない。しかし事実彼は、森の中でティカたちの前にいた。
「どうしてこんなところに」
ティカは咎める口調になりかけたが、事実この場所にいるのだから理由を問うても仕方がないと途中で言葉を飲み込んだ。原因を突き止めるのは後でいくらでもできる。優先すべきは彼を安全な場所に届けることだ。
「ティカ、一度村にもどりましょう」
「ああ、私が周囲の警戒をする。君は……」
不吉な羽ばたきが聞こえた。
悪い偶然は、重なるものだ。
ケイムヴォルクと視線を交わす。木の幹を背中にして、マーティンを守る位置に立ったのを見てから、ティカは目立つ場所で敵を迎え撃つために盾を構えた。
抜き放った剣の柄を弄び手に馴染ませている最中、それは飛来した。
油断していたつもりはない。その巨体を今までどうやって隠していたのか、ティカの目には突然目の前に黒い影が現れたようにすら見えた。鉤爪を受け止め、盾をつかもうとした足に向かって剣を振る。羽毛が飛び散ったが、手応えは薄い。
巨鳥は上空に飛び上がった。ティカの動きを窺うように木の上に止まり、今度は眷属たちが代わる代わる飛来した。一匹一匹は脅威ではないが数が多い。切り伏せても切り伏せても攻撃が途切れることはない。じりじりと押されていく。
これでは消耗戦だ。勝負を決めたいが、上空の敵には剣が届かない。
ケイムヴォルクの魔法攻撃ならば射程内だが、マーティンを守りティカを援護しながらでは手が開かない。
迫りくる敵をいなそうとした、ティカの姿が樹影に隠れる。
「ティカ!」
回復魔法が届かない。焦ったケイムヴォルクが前に出る。鉤爪で掴みさるのにちょうどいいサイズの獲物が、無防備になる。機を伺っていた巨鳥が、マーティンに狙いを定めた。
前に飛び出しかけていたケイムヴォルクの足が止まる。
群れに襲われるティカ。狙われているマーティン。鉤爪が狙っている。怯えたマーティンは、目を見開いて凍りついている。
(魔法で応戦するべき? バリアを張って防御に徹するのが正解? それともティカを呼び戻した方が)
戦場に逡巡している猶予はなかった。決断をする前に、敵が眼前に迫る。ケイムヴォルクは咄嗟にマーティンを抱き抱え、地面に蹲った。
せめて、彼だけでも。
風切り羽が空気を裂く音が、すぐ後ろで聞こえた。
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.