仮宿となった家の扉を開く。前に訪れたときと違い、今回は先方からの招きでやってきた。家は、きちんと掃除がされていて埃臭さもなく暖炉も使える状態だった。
「ただいま」
「おかえりなさい、ティカ」
ランプの赤い光で暖かく照らされた部屋で、ケイムヴォルクがわけてもらったスープを温め直している。とても穏やかで日常の一コマに、ティカはひととき家を持ったときのことを夢想した。それはマーティンの言っていたことも悪くないかと思える幸せな日々だった。
だが、それはすべきことを成し遂げたあとのことだ。争いや貧困をどこか遠い出来事として感じていられるのはとても素晴らしいことだ。彼の住む世界を守るために盾を取り、一人でも多くの人間が安寧を享受できる世界を作るために剣をとった。
できれば平和な世界の中にケイムヴォルクも入っていて欲しい。
はじめは距離を取ることがお互いのためだと思っていたし、彼に甘えている自分を恥じた。だが、ケイムヴォルク自身はいつだってティカの隣にいることを選んでくれた。だからティカも彼に背中を預けて共に歩くことを受け入れた。まだ、道半ばだ。人に託された願いも、信念のために討ち倒した人たちの思いも何一つ答えられていないと思う。その長い長い道のりもケイムヴォルクと共にいられれば、寂しくはない。
「大丈夫だったか?」
「何がです?」
「質問攻めにされていた」
「ティカは過保護です。ティカも、いろいろ聞かれたんじゃないですか」
「うん。私の家は君だと答えておいた」
ケイムヴォルクはティカの言葉の意味を頭の中で反芻したあと、顔を赤らめて俯いた。
「それ、子供にいったんですか?」
「具体的なことがわかる年齢でもない。平気だろう。それで、君の方はどんなことを想像したんだ?」
からかうように顔を近づけると、ケイムヴォルクは腕でやんわりと押し返した。
「先にご飯ですよ、ティカ」
例えば寒い夜に交わした睦言や、寂しさを感じたときそれを埋めるために肌を触れ合わせたことを思い出しているのかもしれない。それは食事の後で、確かめればいいことだ。
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.