髪を丁寧に梳る感触に目を細める。ティカが眠たくなっているのを察したのか、後ろに立つケイムヴォルクが身を寄せてティカの背を体で支えた。共に宿をとっているとき、髪の毛や被毛の手入れは彼に任せている。
どうやら彼は手入れしたティカの柔らかい毛並みが気に入っているらしかった。だから触れたそうなときは好きなだけ触れてもらっている。
親しい相手に体を触れられ手のひらの暖かさを感じるのは心地いい。大きな手が注意深く体に触れ、香油の香りに包み込まれる。はじめは毛質の違いや指先の太さで苦労して、ティカの髪を結うことができないでいた。しかし近頃ではすっかりと慣れて、器用に髪の毛を編み込んでいく。
「ティカ、終わりましたよ」
「うん、ありがとう」
夜に待ち合わせする場所を決めて、二人は別々に街に出た。
用事を終えてマーケットを通りかかったとき、ティカは嗅ぎなれた香りに引き寄せられるようにして足を止めた。珍しい輸入物の香油を取り扱う店先で、香りを試す人が手の平に滴らせた香油の香りだ。それはティカの髪の毛から香るのと同じ香りだった。
新しい香りだと思ったが、どうやら昨日この街に来たときに、買ったものだったらしい。思わず近づいて値札を見る。どれもこれも、けして安価なものではない。だがケイムヴォルクはそれでもまめに新しい香りや手入れ用品を追加している様子があった。その割に自分のことにはあまり頓着していないのが、ティカには不思議だった。
ケイムヴォルクの烏の濡れ羽色をした髪も、ティカからすれば十二分に美しく手触りが良い。獣のふわふわとした被毛ではなくしっかりとした髪質は、時折無性に顔を埋めたくなる。自分のことを後回しにしがちな彼には、ティカから何か送ろうと思い彼に一番似合うと思った香りを見繕って購入した。
喜んでくれるだろうか。
待ち合わせ場所に向かう足取りが、軽くなる。
ケイムヴォルクはティカよりもずっと背が高いから、抱きあげたり背に庇ってやることができない。その体格差を悔しく思うことは度々あるが、人混みに姿を探すときだけは彼の背が高くてよかったと思う。
「ケイム!」
彼もまた人混みの中からすぐにティカの姿を見つけて、柔らかく微笑んだ。すっかりと馴染みになった動作で、膝をつき視線を合わせて抱きしめる。
「おかえりなさい、ティカ」
「今日は君に贈り物があるんだ」
香油の包みを差し出すと、ケイムヴォルクは目を見開いた。
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