望月 鏡翠
2021-11-05 13:59:43
1040文字
Public 日課
 

#438 海沿いの旅8

FF14創作/#毎日最低800文字のSSを書く

 女性は、ティカの言葉を聞いて息を呑んだ。野営地の中を見回し、そこに自分たち以外の誰の姿もないことを確かめると、最後に彼女の目は天幕にたどり着いた。遺体は見えないようにしてあるが、隠しきれない死臭がそこから漂い出していた。
「私だけ、ですか。他に生きている人は一人もいない?」
 念を押すように、彼女はティカの目をじっと見つめた。
「私たちが来たときには、もう冷たくなっていた。手の施しようがない。何があったのか、話してくれるか?」
 あれほどまでに不味そうな顔をして口にしていた薬湯を一気に飲みほし、喉を湿らせると彼女は昨晩のことを教えてくれた。
 この場所に宿っていた一団は商人だが、あまり行儀の良い商売をしている一団ではなかった。リムサロミンサの定めた法を無視する、掟破りたちだ。番人たちからの制裁が下ることを恐れて、常に大型のキャリッジと共に移動をしていた。彼女は親から借金のかたに売り飛ばされて以来、ずっと彼らにこき使われていた。彼らが悪事を働いていると気づいていたが逃げ出すこともできず、ずっと見てみぬふりを続けていたのだという。
 だが、昨晩食事のあと天幕の中が急に騒がしくなった。様子を見に行こうとした見張りの男も苦しみだし、異様な空気が恐ろしく思わず逃げ出していた。その後頭部に何かが当たった。おそらく、見張りの男が逃げ出す彼女をみて何かをぶつけたのだろう。
 そして、気がついたら見知らぬ冒険者——ケイムヴォルクとティカ——に囲まれていた。
「一体、どうしてこんなことに……
 肩を震わせて顔を覆った女性の背をケイムヴォルクがさする。
「たぶん、死因は毒だ」
「毒、ですか」
「あのシチューを、作ったのは誰だ」
 ティカは火から避けた焦げ付いた鍋を指さした。
「あれは……
 女性の言葉が途切れた。ぴたりと動きをとめ、その目は焚き火の横に置いた薬草に注がれていた。
「あの、そこに置いてある草は?」
「ん、君に作った薬湯の残りだ」
 女性は弾かれたように立ち上がった。ケイムヴォルクの手を振り払い、水場に向かって走り出す。喉に手を突っ込んで飲み込んだものを嘔吐する。
「ひぇ、あ、あのどうしたんですか?」
 ティカは涼しい顔で、焚き火の横に積んである草を指さす。
「ここにいる人間を殺した毒の正体だ」
「てぃ、ティカ! 飲んじゃダメですよ。そんなもの」
「これには入れていない」
 薬湯の残りを啜り、多少冷めたところで変わらないひどい味に顔を顰めた。