望月 鏡翠
2021-11-02 23:29:13
900文字
Public 日課
 

#435 海沿いの旅7

FF14創作/#毎日最低800文字のSSを書く

 女性は自分を抱きすくめているのが男であると気がついた途端に逃げ出そうとして暴れ、ケイムヴォルクの膝から転げ落ちた。頭の傷に響いたらしく頭を押さえてうずくまった後、這いずって距離をとった。
「急に、動いちゃだめです。お、おちついてください」
 怯えるネズミは猫を噛む。女性が護身のためにケイムヴォルクに危害を加えることを危惧したが、幸いすぐに平静を取り戻した。見覚えのない冒険者の顔を交互にみる。
「あなたたち、誰ですか? 他のみんなは?」
 次いで様々な質問が口をついて出掛けたが、咳き込み言葉が続かなかった。ケイムヴォルクが助け起こして、背中をさする。
「私たちは通りすがりの冒険者だ。倒れていた君を保護した。聞きたいことはいろいろあるだろうし、こちらも君に聞きたいことがあるがまずは落ち着いてくれ」
 薬湯を差し出す。ハーブ臭がきついそれを彼女が警戒して口をつけなかったので、ティカが先に一杯飲んで見せた。口の中がぎゅっとするような渋みはあるものの、体に悪いものではない。警戒心が強い彼女はティカの体になんの異常もないことを確かめてからようやく口をつけた。その間に煮立っていた薬湯は程よく冷えた。
 だが一口啜り、ひどい渋面になった。
「なんですか、これ。すごく、まず……独特な味がする」
「薬湯だ。味が酷いのは勘弁してくれ。体には良い」
 薬草を乾かして苦味を抜き、水の代わりにミルクで煮出して蜂蜜を入れればもっと飲める味になる。だがこんな状況でそんな準備をしている暇はない。
 だが幸いにも、酷い味の薬湯は彼女に生きているという現実感を与えたらしく、飲み終わる頃には落ち着き意識がはっきりとして喋ることができるようになっていた。
「この場所にいた、他の人はどうなったんですか?」
 ケイムヴォルクとティカは顔を見合わせた。彼女は冒険者二人以外の人影が見えない野営地を見渡す。そこは相変わらずあまりにも静かな場所だった。意識を取り戻したばかりの彼女に事実をありのまま伝えてもいいのだろうか。
「残念だが、生きていたのは君一人だけだ」
 迷った末にティカは決断し、その残酷な事実を告げた。