生死はわからないが、人が倒れている。それを視認した瞬間に、止める間も無くケイムヴォルクは飛び出していってしまった。ティカの指先はひらめく服の端を捕らえたが、走りだす勢いを止めるほどの力にはならなかった。
「ケイム、危険だ。私が先に……」
言うよりも走った方が早い。前を行く背に引き離されないように駆け出した。
野営地に近づくほどに、そこには一切の生き物の気配がないということが確信を持って感じ取れた。見張りの影もなく、武器を持って駆け寄るティカを止めるものはない。嫌な予感は確信に変わっていたが、今はそちらを調べることよりも駆け出したケイムヴォルクとその周囲の安全を確保することが優先される。
草むらから彼が助け起こしたのは、質素な格好をした女性だった。朝霧に体を晒していたせいか、服も髪の毛も濡れている。
「息はあります」
口元に手を当て、首筋で脈をとってから助け起こす。濡れた髪が張り付いた顔立ちはよく見えなかったが、顔色が悪い。血の赤色はどこにもなかったが、呼びかけに反応する様子はなくぐったりとしている。
「体が、冷え切っていて。温めないと……」
丘の向こうに置いてきたチョコボの方を見る。毛布も火種もあちらに置いてきている。急を要するのならもっと近い場所に焚き火がある。ティカはケイムヴォルクにその場で待つようにジェスチャーして、野営地に足を踏み入れた。
静かだった理由は、すぐに知れた。想像した通りの有様だったので、ティカは特に驚くこともなく、その光景を受け止めた。
キャリッジの持ち主たちは、例外なく天幕の内側で冷たくなっていた。焚火に近づけば、傍に毛布に包まって見張りの男らしき人物の骸もある。遺体のいくつかには、喉を掻き毟った痕が残っている。そして天幕の内側では、吐瀉物の臭気が鼻をついた。既に体は硬くなっていて、死んでからの時間の長さが伺いしれた。
すぐ近くにいるチョコボや倒れていた女性が無事なのだから、この場にとどまっただけで命を失うということはないだろう。少なくとも、即座に脅威となるようなものはこの場所にない。そう判断を下し、ティカは見張りの死体を天幕の中に片付けてからケイムヴォルクを呼び寄せ、消えかけの火に薪を足した。
「ここの人たちは……?」
「後で話す。今はとにかく、彼女の救命が先だ」
ケイムヴォルクはしんとした天幕の方にチラリと目をやったあと、あらゆる言葉を飲み込んでうなずいた。
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