とく、とくと心地よい鼓動に包まれてティカは目を覚ました。視界一杯に外套の茶色が広がっていて、一瞬自分がどこにいるのか分からず混乱した。身動ぎをしたティカが、膝の上から転げ落ちないように、体を支える太い腕がある。
ケイムヴォルクの腕だ。彼の鼓動と彼の体温。守られているという安堵で、野営の最中であっても熟睡してしまった。
「おはようございます」
布越しにケイムヴォルクの声が聞こえた。外套の切れ目を探して顔を出す。夜明けが近い空は白んできていたが、まだ太陽は顔を出していなかった。海から陸に這い上って来た朝霧が大気に満ちている。それでも寒さを感じないのは毛布ごとケイムヴォルクに抱きしめられて、すっぽりと外套の内側にいるからだ。昨晩、夜も更けて見張りを替わろうとしたときに、膝枕のお返しとばかりに抱きすくめられ拒む理由がなかったから、そのまま眠ったのだ。
「おはよう、ケイム」
あくびをしながら、懐の中から転がりでる。伸びをしていると、後ろから伸びた手が頭を撫でて耳と髪の毛を整えていった。
「寝ている間、変わりはなかったか?」
安穏と眠っていられたのだから、何もなかったことはわかっている。それでも口に出して問うのは習慣のようなもので、彼との間に存在する朝の挨拶の続きだった。
「そうですね……、星が綺麗でした」
ケイムヴォルクは少し考えたあと、星空を思い出すように乳白色に染まった空を見上げた。
「私も昨晩、起きている間は星を見ていた」
冒険者になる前はこんなに頻繁に星を見上げることはなかった。ティカの故郷は深い森の中にあって見上げたところで見えるのは空を塞ぐ枝葉が揺れる様で、星空はその向こうでちらついているものでしかなかった。方向を失ったときの道標でしかなかった星空が、こんなにも美しいと感じられるようになったのは、ケイムヴォルクと出会ったからだ。
月の色を見ると彼の左目を思い出す。星の輝きの中に右目と同じ紫色の光を探す。何より背の高い彼の顔を見上げたとき、その向こうにはいつも空があったのだ。
空を見上げる横顔をじっと見つめていると、ケイムヴォルクは視線に気がついたようにティカの方に目を落とし、はにかんだ。
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