望月 鏡翠
2021-10-22 20:12:51
1146文字
Public 日課
 

#424 うらみつらみ

FF14創作/#毎日最低800文字のSSを書く

 これほど人が多い場所にいて、誰も彼女の話を聞き入れようとしなかった。無視をされていたのではない。ほとんどの人間に見えていなかったのだ。
 最初はティカも気がついていなかった。普通の人間であるかのように彼女に接していた。だがケイムヴォルクが声をかけてきたときに、彼には彼女が見えていないのだと気がついたのだ。たとえティカが依頼を抱えすぎることを案じていたとしても、彼は依頼人本人を前にしてそれを口にするような人ではない。
 そして聞き込みの結果もそれを裏付けた。彼女の外見の特徴——あんな風にやつれてしまう前の外見でなければならないから、想像で補う必要があった——を訪ね歩けば心当たりがある弁当屋は見つかった。しかし、誰も彼もなぜ今更そんなことを聞くのかという怪訝な顔をした。それもそのはずである。その女性店員が行方不明になったのは二年も前のことだったのだ。
 どこにいったかわからないがおそらく……そういって目をそらし彼らが飲み込んでしまった言葉の先をティカも既に知っていた。
 そして、当時彼女を追いかけていた男の素性も突き止めることができた。だがそれを彼女に伝えて良いのかどうかだけが、まだ明らかになっていない。
 虚な目をした女は唇の端を持ち上げた。朗らかとは言い難いそれは、どうやら笑顔のつもりらしい。死んでいる人間だとわかってしまえば、土気色をした顔や張りのない肌も死んだ人間のそれに思えてくる。
「ええ、そうです。ええ、気づいていますよ。もちろんね」
 不気味な薄ら笑いを浮かべる女の声は冷え冷えとしている。
「どんな手を使っても失われた命を取り返すことはできない。そのことは、わかっているな?」
「命を〝奪われた〟って? ふふ、私がそんな言葉遊びをするために、依頼をしたと思っていらっしゃるのなら、おめでたいですね」
「なら、君は何のためにその男を探している?」
「身体がね、ないんです。わかっていますよ。私はきっと死んでいるんでしょう。でもあの日歩いた道を歩いても、墓所にいっても私の身体がみつからない。きっとあのおとこが、どこかに持っていってしまったの。それを見つけない限り、私はきっとずっと彷徨うことになるんです。だから、ねぇ冒険者さん。教えてください。あいつはどこにいるんです? 知っているんでしょう名前だけでいいんですあいつの正体がしりたいそうでなければかえることができないはやくさぁわたしがほかのなにかになりはててしまうまえにおまえがしったひみつをおしえろぼうけんしゃさもなくば」
 女は、ティカの首に手をかけた。
「おまえがあいつのかわりに死ぬか?」
 虚の瞳から黒く滴り落ちるのは、涙か腐敗液か。それともただの濁ったエーテルの蟠りであったのかも知れない。