女性の話は概ね理解した。彼女はずっと変質的に付き纏っている男の影を感じていて、彼に襲われたと考えている。だが、まだ肝心の部分を聞かせてもらっていなかった。
「君が取り返したいものとは一体なんだ」
彼女はずっと俯き、自分の膝ばかりをみつめているので感情が分かりにくかった。それでもティカの言葉が答えたくない類のことだったというのは、肌感覚で理解できた。だからといって質問を撤回するつもりもなかったのだが。
「それは……、お教えできません。いえ、教えられません」
やはり彼女はわざとそれを口にすることを避けていたのだ。
「お話しなければ、ご依頼は受けていただけません? 胡乱だから信用できないと、思われました?」
彼女はそこで初めて顔を上げて、ティカの目をはっきりとみた。黒く隈を作り張りを失った肌が落ち窪む眼窩は虚のようだったが、その奥の瞳には切実さがあった。彼女はティカに隠していることがあるし、嘘を吐いているかもしれない。だが、その切実さには偽りがない。彼女はその男を探している。それだけは真実だ。
ティカは緩やかに首をふった。
「言いたくないのなら構わない。ただ君が隠し事をしている以上、調べた結果をそのまま君に教えるかどうかの判断はこちらに任せてもらうことになる」
「ええ。ええ、それで構いません。本当に、ありがとうございます。調べていただけるというだけで、十分です。ああ、こんな条件で受けてくれる方がいると、思ってもいなかった」
両手を胸の前で組んで彼女は天を仰ぎ、神に感謝を捧げた。その眦から一筋涙がこぼれおちる。
「それで、君が働いていた店の名前は……」
「ティカ? こんなところで何をしているんですか?」
ティカの言葉にケイムヴォルクの声が重なった。カーラインカフェで待ち合わせていたはずなのに、エーテライト広場で腰掛けているティカに目が止まったらしい。眉根を寄せた疑るような顔をみて、耳がへたりと力を失う。
「依頼を受けていた」
隠しても仕方がない。ティカは大人しく白状した。
「また引き受けちゃったんですか?」
呆れたように言われ、かえす言葉がない。
「ごめんなさいね、忙しい人なのに」
後ろで女が呟く。
「構わない。私は……」
振り向いた先に既に女の姿はない。弁当屋の所在を聞きそびれてしまった。
それにしても立ち去るのが早い人だ。
ティカは首を傾げた。
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