望月 鏡翠
2021-10-16 17:22:30
942文字
Public 日課
 

#418 嘘つき

FF14創作/#毎日最低800文字のSSを書く

 ティカ・ア・ジャロウは嘘を吐く。
 それはいつも自分のことを心配するであろう誰かのためだったが、嘘を吐いているという罪悪感はいつも僅かながらに付き纏う。ペンをおいて、ティカはため息をついた。火の絶えない暖炉の上でヤカンが蓋をカタカタと震わせながら蒸気を吐き出している。
 イシュガルドで取った宿は薄暗く、テーブルの下に誰が残していったか定かではない酒瓶が転がっている。貴族の屋敷で賓客として手厚く迎え入れてもらうこともできるのだろう。しかし、旅暮らしが身についた身の上で腰を下ろすことすら憚られる上等な椅子や豪奢な調度品に囲まれていると、落ち着かないのだ。
 それにあの屋敷で手紙を書くためのペンとインクを所望すれば、ウォーターマークで紋章を漉き込んだ紙に上等なセピアのインクが提供されるに違いない。もっと劣悪な紙をと頼めばマーケットから取り寄せてくれるだろが、執事を大いに戸惑わせるだろう。ティカに仕えているわけではない彼にそこまで手間をかけさせるのは申しわけがない。
 家族には、己が巻き込まれている動乱の大半を伝えていないのだ。イシュガルドの貴族の屋敷から突然手紙が届いたら、母を驚かせてしまう。庶民が使う宿で、ペン先を腐食させる酸性が強いブルーブラックのインクで書くくらいが冒険者ティカ・ア・ジャロウの身の丈に合っている。ウルダハでの一件のあと、その判断は間違っていなかったのだという思いを強くした。
 家族の中でティカ・ア・ジャロウは、光の戦士などではなく一介の冒険者であって欲しい。だから、政治的動乱に巻き込まれることも戦争に関わることもなく、依頼をこなし旅をしているだけだ。身の回りで起こったことの中でありふれた出来事や、人々からの依頼の部分だけを抜き出して手紙に書くようにしている。だから騒乱に巻き込まれている間などは、書くことがない。全くの捏造を書くほどティカは器用ではないのだ。
 そうやって書いた手紙をつなぎ合わせると、自分でない誰かの冒険譚を綴っている気分になる。
 帰りたい帰りたいと書いているが多分、故郷に戻ることはない。
 戻ったら、手紙の中の自分と現実の自分のギャップをきっと見抜かれてしまう。ティカの体に残る数多の傷跡を、彼らは知らないのだ。